千歳管制隊(6)

取材時の千歳管制隊長は、今でも自ら週に数回管制業務を行なうという、歴代の管制隊長の中でも稀有な存在でした。
そんな隊長に、管制官に求められる資質を聞いてみたところ、たとえが印象的な回答が返ってきました。

「30センチ四方のお盆があって、そこに色とりどりのビー玉を転がしたとします。その様子を数秒間見せてからお盆を隠す。そしてどこに赤いビー玉があったのか尋ねたときに、正しく答えられる人。これが管制官に求められる資質ですね。つまり直感力、難しくいえば空間認識能力。そして記憶力が求められます。さらに20分前のビー玉の配置を覚えていても意味ないので、忘却力も必要です。これらは努力だけではどうにもならないところがあるのは確かですね。どんなに成績優秀でもまじめ過ぎて20分前の記憶を引っ張ってしまう、あるいはヤマを張りすぎて5分後のことを考え過ぎてしまうタイプも不向きです」

ふたつの飛行場を一元的に管制するという特異な千歳管制隊で鍛え上げられた管制官は、相当な腕前になるのではという問いには……

「確かに、ここの隊員には“われこそは千歳だ”という思いはありますね。それは一歩間違えれば井の中の蛙になったり、天狗になったりする恐れもはらんでいます。しかしあえて言うなら、それくらいの誇りや自信を持っていてもらわないと、民航機の定時性・安全性と自衛隊航空機の訓練効率を両立させる千歳の管制はできません。実際、管制だけでなく、飛行管理も整備も本当によくやってくれています」

2008年夏に洞爺湖サミットが開催されました。なんだか随分昔のことのように思えますね。
新千歳空港は未曽有のVIP航空機ラッシュ、千歳飛行場も偵察や警備、輸送など陸海空の航空機が絶え間なく離発着するという、千歳管制隊史上最大のミッションとなりました。
その際に千歳管制隊に所属していた隊員たちにとっては、当然ながら忘れられない印象深いミッションとなっています。

「G8プラス20数か国の首脳がみんな新千歳空港にやってくるなんて、部隊が設立して50年間で一度もなかったことです。前年の秋くらいから準備を始め、1分1秒遅れずにしっかり下ろす、しっかり飛ばすという明確な目標に対し、部隊の全員が走り続けた感じでしたね。士気も大いに上がりました」

ちなみに隊長にはこの部隊でやってみたいことも尋ねてみました。

「一度でいいから、10分でいいから、管制隊の160名全員が一堂に会してみたいですね。ま、タワーもレーダーも無人にするわけにはいきませんから不可能な夢なんですが。管制隊の宿命です」

なるほど。海上自衛隊の救難飛行艇US-2を運用する71航空隊も常に岩国基地だけでなく厚木基地でも前進待機している隊員がいるので、全員がそろう機会がないと聞きました。管制隊の場合は千歳に限らず、あらゆる管制隊が一堂に会する機会をもたないわけです。
個人的には、取材時に庁舎とタワーが車で移動しなければならないほど離れているので(飛行場のある基地は総じて広いので珍しいことではありませんが)、隊員たちも往復が大変そうだと感じました。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)6月11日配信)