千歳管制隊(3)

空港でもっとも高さのある管制塔、通称タワーで扱う管制業務は、基本的にタワーから見える範囲です。
より広い空域の管制を取り扱うのは、ターミナルレーダー管制業務です。
出発機や到着機および進入管制区を通過する航空機に対し、レーダーを使って航空機相互間の安全間隔を設定する業務が、ターミナルレーダー管制所、通称ラプコンで行なわれています。
護衛艦に例えるなら、視界が開けた艦橋がタワー、薄暗いCICがラプコンと言えるでしょう。
視界が全方面に開けた開放的なタワーと異なり、ラプコンは窓ひとつない無機質な空間です(それもCICと共通です)。ただしCICとは違って天井が高いせいか、閉塞感や息苦しさは感じられません。
ずらりと並んだレーダースコープに表示されているのは航空機の便名、高度、速度などの情報で、中央情報処理装置・器材室のターミナルレーダー管制情報処理システムがレーダー情報と飛行計画情報をコンピュータで処理したもの。この高度な管制用レーダーシステムが管制官の業務を支援しています。
このラプコンもタワー同様、座る席によって役割が異なります。
TCA席では、パイロットの要求に応じて交通情報の提供およびレーダー誘導を行ないます。
出域管制席では、出発した航空機をあらかじめ指定された経路まで誘導します。
入域管制席では到着する航空機に対し進入順位の決定を行ないます。出域管制&入域管制は、飛行場によっては兼任できる管制所もあるそうですが、便数の多い千歳の場合、ひとりでこなすのは到底不可能だそう。
捜索誘導管制席は到着機を最終進入経路へ誘導し、着陸誘導管制席または管制塔に引き継ぐまでの間隔を設定します。
着陸誘導管制席は、滑走路の近くまでレーダーを使用して航空機を誘導します。
副管制席では発機、到着機、通過機などについて管制塔および関係機関と調整、そして運用主任席はタワーのそれと同様の役割を担います。
各管制の役割を見ると、管制の連携プレーによって航空機を導いていることがわかります。
たとえば着陸する航空機の場合、まずはTCA、次に入域管制、捜索誘導管制、そして着陸誘導管制またはタワーの飛行場管制と管制の担当がどんどん変わっていきます。そうすることで航空機に対して随時的確な情報を提供できるのです。
最後の着陸の段階では、有視界飛行できる場合はタワーの飛行場管制が担当しますが、霧など荒天により計器飛行での着陸となる場合は、着陸誘導管制の出番となります。
この席に座っている管制官が音声により航空機を滑走路まで誘導するのですが(いうまでもなく交信は英語です)、着陸するまで絶え間なく、そして淀みなく指示を出し続ける姿はまさに「プロフェッショナル」そのもの。管制官に言われるがまま操縦するパイロットの姿まで、思わず目に浮かびます。
ちなみに、ラプコンで勤務する隊員もすべて管制官で、全員タワーでの管制業務も行なう資格やスキルを持っています。一方、タワーの管制を行なえる隊員が、ラプコンの業務を行なえるとは限りません。人の目に触れるタワーでの業務は華やかに見えるものの、業務の難易度で見るとラプコンのほうが高いというわけです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)5月21日配信)