メイキングオブ防衛白書(2)

防衛白書の制作にあたるのは、防衛省大臣官房企画評価課防衛白書室。
なにやら威圧感のある長い名称ですが、実際の事務室はキャビネットと人数分の机を並べればそれでいっぱいの、決して余裕のあるとはいえないこぢんまりとした部屋。ただしこれは私が取材した当時の部屋なので、もしかしたら今はどーんと広い部屋にバージョンアップしているかもしれません。
そこで白書の制作に関わっているのは6名。これに白書担当の報道官1名の計7名という少数精鋭が1年の年月をかけてつくります。
編成は、報道官を筆頭に、室長を務める部員(いわゆる背広組です)、陸海空の自衛官1名ずつ、庶務担当の女性自衛官、そして事務官と、背広組と制服組がタッグを組む混成チーム。
白書室にやってくるまでは、その誰もが白書の一読者に過ぎなかった面々です。
右も左もわからないまま、さあこれから白書を作りなさいとこの部屋に集められるのですから、スタート時の苦労がしのばれます。
私が取材した時期の報道官は前田哲氏、白書室の直属の上司に当たります。ちなみにこの方、現在は内閣官房副長官補(兼)国家安全保障局次長(兼)内閣サイバーセキュリティセンター長と、たいそうな役職を兼任されていらっしゃいます。
取材時にはこんなコメントを残してくれていました。
「防衛白書は発行部数が多く“白書オブ白書”といえるもの。世間にアピール度も高く、それを作らせてもらえるのは光栄な仕事だと思いました。また、1年かけて防衛省のさまざまな施策を国際情勢も含めて隅々まで見る機会はそうありませんから、その点でもラッキーだと思いましたね」
室長に当たるM部員は、白書室の取りまとめ役です。
「最初の数か月は、当時勤務していた北海道防衛局と白書室の兼務だったんです。北海道と東京を行ったり来たり、もう何という人事だと(笑)」
白書の本文の作成に当たるのは、陸海空の自衛官。
本文作成だけでなく、所属の幕僚部との連絡調整なども行ないます。
制服組のリーダーはK2等空佐(当時)。現在は第2補給処業務部長兼ねて十条基地司令となっていらっしゃいます。取材時のコメントです。
「自衛官が書くって意外に思われるかもしれませんが、現場を知っている自衛官が書くのがいちばんいいという考えからです。現場を通して国民に伝えたい、ということなんでしょうね。今回は陸や海の自衛官、事務官と混成チームでの仕事ですが、以前防衛大学校に勤務していたときもこういう感じだったので、特に違和感はなかったです」
I2等陸佐(当時)は現在、中央即応連隊長。白書作成時にはこんな言葉を残していました。
「白書の読み手から作り手に変わって気づいたのは、ひとつの言葉にさまざまな人の思いが込められているということです。それに単語ひとつとっても、その単語に賛成の人もいれば反対の人もいる。文を書くのはもともと好きだったんですが、書く難しさを再認識しています」
S3等海佐は、今まで何気なく読んできた白書の「深み」に気づいたそうです。
「自分が制作側に回って、実はすごく精査されていて隙のない文章なんだということを知りました。まさに防衛省の知恵が詰まった1冊で、一般の人だけでなく自衛官にももっと読んで欲しいと思いましたね」
S3佐については最新の情報がたどれませんでした。2015年3月に、ソマリア沖アデン湾の警戒監視活動を行なっている派遣海賊対処行動航空隊第18次要員の飛行隊長として、警戒監視飛行1万時間を達成したことまではわかっています。
そして白書室の紅一点、丹羽梢海士長。舞鶴総監部からはるばるやってきた、庶務を担当する海上自衛官でした。
初めての仕事、初めての東京、周囲は年上の上官ばかり、知り合いもいない。最初はさぞ心細かったことでしょう。
「陸の人、空の人、事務官もいるといった環境で働くのは初めてだったので、すごく新鮮でした。そもそも言葉が通じないんですよ。陸海空それぞれ独自の用語があるみたいで、当たり前に“巡検”という言葉を使ったら『は?』って顔されたり(笑)。私は私でヘリボンとか言われても、なんのことやらさっぱりでした」
これら総勢7名が白書室というチームを構成し、約1年かけて国内外に日本の防衛の基本方針を語る白書を作るのです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)4月2日配信)