昭和45年版 日本の防衛  「防衛白書」(1)

今週から2週にわたり、昭和45年に初めて刊行された『日本の防衛 昭和45年版防衛白書』巻頭文をご紹介します。
初めて防衛白書が刊行されたときの防衛庁長官は中曽根康弘氏です。現在、防衛省のHPで歴代の防衛白書を読むことができますが、中曽根長官の巻頭文は掲載されていません。かなり貴重な資料と言えるでしょう。
しかも、中曽根長官の言葉が熱い! それを実感していただくために、まずは令和元年版の防衛白書の巻頭文を以下に掲載しますので、さらっとでいいので目を通してみてください。
令和元年防衛白書の刊行に寄せて

防衛大臣 河野太郎
令和元年9月11日に防衛大臣を拝命しました、河野太郎です。
令和の時代も平和の時代となるよう、わが国の平和と安全を維持し、国際社会の平和と安定の確保に寄与することで、国民の生命・財産をしっかりと守るということに努めてまいります。
令和元年版白書の対象期間には「防衛計画の大綱」(新防衛大綱)と「中期防衛力整備計画」(新中期防)の策定をはじめ、岩屋前防衛大臣の下、様々な防衛政策の進展や事象への対応がありましたので、岩屋前防衛大臣からも刊行に寄せてお言葉をいただきました。
国民の皆様におかれましては、令和元年版防衛白書を手に取っていただき、防衛省・自衛隊をより身近なものに感じていただけることを願っております。
前防衛大臣 岩屋毅
本年5月1日、令和の時代の幕が開きました。本年は、防衛省・自衛隊にとって、令和の始まりの年であるとともに、昨年12月に策定された新防衛大綱と新中期防に基づき、新たな時代の防衛力の構築に着手する最初の年となります。防衛省・自衛隊は、この新しい時代においても、わが国の平和と独立が守られるよう、全力で任務に当たってまいります。
わが国を取り巻く安全保障環境は、かつて想定していたよりもはるかに速いスピードで厳しさと不確実性を増しております。とくに顕著な変化は、宇宙・サイバー・電磁波といった領域の軍事利用が急速に拡大していることです。近年の技術革新により、これらの領域は陸・海・空という従来の領域と並ぶ重要性を持ち始めました。また、地域に目を向けると、中国は周辺海空域における活動を拡大・活発化させており、日本海さらには太平洋に進出する戦闘機や爆撃機の飛行も増加しつつあります。北朝鮮は依然としてわが国全域を射程におさめる弾道ミサイルを数百発保有、実戦配備しております。5月以降、相次いでいる日本海への短距離弾道ミサイルなどの発射は、北朝鮮が、3度に亘る米朝首脳の会談や面会の後も、関連技術の高度化を図っていることを示すものであり、わが国として看過することはできません。
このような厳しい安全保障環境の下で、わが国の平和と独立を守っていくために何より重要なのは、わが国自らの努力です。新防衛大綱と新中期防の下、我々は、わが国自身の防衛体制を抜本的に強化します。その際には、陸・海・空という従来の領域に、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を融合させた「多次元統合防衛力」の構築を図る考えです。
また、日米同盟は、わが国自身の防衛体制とあいまって、わが国の安全保障の基軸です。安全保障環境の変化に伴い、両国が協力すべき分野は拡大しています。私自身、着任以来5回にわたり日米防衛相会談を行い、率直な対話を積み重ねてまいりました。首脳レベルから現場レベルに至るすべてのレベルで連携を深め、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化を図らねばなりません。同時に、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄をはじめとする地元の基地負担の軽減に全力で取り組んでまいります。
さらに、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを実現するためには、米国とも連携しつつ、各国との安全保障協力をこれまで以上に強化していくことが重要です。オーストラリア、インド、ASEAN諸国などとの間で、多角的・多層的な安全保障協力を戦略的に推進していく考えです。
今回の防衛白書では、巻頭に「新たな防衛計画の大綱」と題した特集記事を設け、新防衛大綱が示す安全保障環境や防衛体制の強化について、写真や図表も用いて説明しております。さらに、本編では、新防衛大綱と新中期防の全体像を詳しく記述するとともに、コラムによる解説記事を活用し、ご理解を深めていただけるよう努めました。
「令和」スタートに当たって「平成」を振り返ってみますと、平成の時代は、冷戦の終結から始まり、その後、相次ぐ自然災害、北朝鮮をめぐる緊張の高まり、米国同時多発テロ、中国の台頭を経験するなど、わが国を取り巻く安全保障環境が大きく変化した時代でありました。そのような中にあって、我々自身も、カンボジアなどにおけるPKOへの参加、有事法制の整備、自衛隊のイラク派遣、平和安全法制の整備など、防衛政策を深化させてまいりました。
今回の防衛白書では、平成の時代における防衛省・自衛隊の動きを振り返ることができるよう、「平成の防衛省・自衛隊~30年の歩み~」と題した巻頭特集記事も設けましたので、ぜひお楽しみいただきたいと思います。

さて、いよいよ昭和45年10月に刊行された防衛白書の冒頭にある、中曽根長官の言葉です。少々読みにくいかもしれませんが、句点や「つ」などはそのままの表記としました。また、文法的に変なところもありますが、すべて原文のままです。

「日本の防衛」の発刊にあたつて
国務大臣防衛庁長官 中曾根康弘
原水爆や大陸間弾道弾のような,人類がみずから作り出しながら,人類自身の生存や文化を脅かす兵器が出現した今日,また,飛行機のような輸送手段や,テレビのような伝播手段が極度に発達し,地球が狭くなり国境が従来のような国境の意味を持たなくなつた今日,「防衛」の問題は,もはや一国単位の内政事項としてのみでは考えられないし,また考えてはいけない時代となつた。
原水爆のような「業を背負つた兵器」を人間は造り出して,果して人間が自分の手でみずから作り出した原水爆を自由に制御できるかどうか。先史時代の爬虫類の中には,体の一部が闘争用に巨大化しそのために死減したものがあるそうであるが,今の人類も同じように超破壊力を持つ武器を抱え,その歴史上未曾有の生存をかけた試練に直面している。その危機は,世界の人々が人類として運命を共にする良心を強く持ち,国際協力によつて核兵器や大陸間弾道弾の製造や使用を統制管理しなければ乗り切れない。かくして今や,「日本の防衛」は単なる「日本の防衛」だけではない。それは「人類の防衛」に連なり,世界の連命の一端の責に任ずるものである。
したがつて,今日の防衛は,戦前,戦中の一国中心の単なる一国の軍事戦略を主としたいわゆる「国家防衛」と異なり,世界的拡がりを持つた人類的憂心に伴われ,そして総合的政治戦略に導かれた「国土と共同生活体の防衛」でなければならない。

長くなるので次週に続きます!
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)1月9日配信)