明野駐屯地航空学校(2)

ヘリパイへの道は長く険しいものです。そもそも操縦士になれるか以前に、操縦士になるための教育訓練を受けられるか、そこにたどり着くまでも難関です。
選抜試験の一次は一般教養(国語、社会、英語、理科)と自衛隊問題(各種法律、国際条約等)の筆記試験です。
続く二次試験は航空適性検査、航空身体検査、体力検定、口述試験の4項目からなります。
航空適性検査は航空機搭乗員として必要な判断力、正確性を検査するための試験で、成績が優秀だからといってかならずしも航空適性があるとは限りません。
航空身体検査にしても、本人の努力だけではどうにもできない項目もあるので、ここで引っかかった場合は操縦士に縁がなかったとあきらめるしかありません。悔しいでしょうね。
検査項目の基準は身長158~190cmから始まり、肺活量、血圧、脈拍が基準値内であることが求められます。視力関係は特に重視され、両眼とも遠距離裸眼視力が0.2以上で矯正視力が1.0以上、中距離裸眼視力または矯正視力が0.2以上、近距離裸眼視力または矯正視力が1.0以上で、オルソケラトジー(手術のいらない視力矯正治療)を含む近視矯正施術を受けていないこと、視器は斜位、眼球運動、視野、調整力、夜間視力、色覚等に以上がないこと。
さらに聴力や歯牙も検査項目に入っています。これ以外に血液検査、尿検査、胸部X線検査も実施、身体健全で慢性疾患、感染症、四肢関節等に異常のないもの、開腹手術の既往症のないもの等の条件も加わります。
続いて腕立て伏せ、腹筋、3000m走、懸垂、ソフトボール投げ、走り幅跳びの6種目による体力検定を受け、そして最後に航空機搭乗員および将来の幹部自衛官としての資質を見られる口述試験が行なわれます。
これらすべての項目をすべてクリアした者だけが航空学校の操縦教育課程に進み、ようやく操縦士になるためのスタートラインに立てるのです。
幹部自衛官の場合、幹部候補生学校卒業後は普通科隊付訓練と部隊勤務を経て航空学校に入校、BOC課程(幹部初級課程)に進みます。ここで航空科の初級幹部として戦術、戦史、航空戦史、展開地勤務(野外訓練)、体育、服務等を学びます。
続く幹部操縦課程は前段および後段の2個グループに分かれ、後段組は部隊勤務を約半年経験してから再び明野に戻ってきます。前段入校者はそのまま明野で幹部航空操縦課程に進みます。
まずは約2カ月の座学教育で航空法、航空気象、航空機整備等を学び、続いてようやく実際にヘリに搭乗しての操縦教育となります。
9カ月におよぶ操縦教育で基本離着陸訓練、緊急操作訓練、編隊飛行訓練、夜間飛行訓練、計器飛行訓練を行ない、すべての試験に合格した者が前期教育終了後、念願のウイングマークを付与されます。
ただしこの時点ではまだ練習機であるTH-480Bの操縦士資格しか付与されていないため、その後連接して実用機教育が始まります。
一方、陸曹航空学生課程の場合は、幹部よりもさらに長い道のりを進む必要があります。
操縦士を目指す者が陸士の場合、陸士から操縦課程へ進むことはできません。そのためまずは一般陸曹候補生課程を経て3等陸曹となり、昇任後1年を経過した時点で初めて操縦課程選抜試験の受験資格を得ます。
ちなみにこの選抜試験を受験できるのは26歳までと、上限が決まっています。合格後は宇都宮学校の陸曹航空操縦課程に進みます。
前期の学教育は9カ月と幹部より長く、共通課目のほか英語教育も受けます。中期教育は操縦教育を約9カ月という幹部と同じ内容で、この教育終了後、ウイングマーク取得となります。
この先は幹部も陸曹も共通で、後期教育としてそれぞれ振り分けられた実用機の操縦教育に入ります。
OH-1、UH-1J、UH-60JA、AH-1Sは明野で5カ月、AH-64Dは6カ月。CH-47JAは木更津で5カ月の操縦課程を経て、各機種の特技(操縦資格)を取得。晴れて航空操縦士として部隊勤務となります。
陸曹についてはこの後1等陸曹に昇任し、約半年の幹部候補生課程を経て3等陸尉へ昇進します。また、希望により皇族や各種VIPを空輸する特別輸送ヘリ、航空偵察や人員を空輸する連絡偵察機への機種転換という道もあります。
こうして陸上自衛隊で取得できる操縦士としての正式な資格は、国土交通省から発行される「事業用操縦士(回)」、防衛省から発行される各機種の技能が付与された「陸上自衛隊回転翼航空操縦士」となります。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和元年(西暦2019年)10月31日配信)