自衛隊統合防災演習(6)

大がかりなセットを使った訓練では最後になるのが、陸自・消防・
警察による半壊ビルからの救出訓練です。
この訓練では、「人を助ける」という目的は同じでも、その手段が
自衛隊、消防、警察ではそれぞれ異なるということがよくわかりま
した。たとえば3階に取り残された人を救助する方法が、使う装備
も、救助者の固定の仕方も、隊員の掛け声も、ロープを使って1階
まで下ろす過程も、ことごとく異なるのです。
持っている装備が違うので当然なのですが、奇しくも3つの機関が
同じ場所で同じ作業を行なっている姿を目にした貴重な機会となり
ました。
ちきりアイランド南側の海域では、水陸両用車による漂流者の救助
や座礁フェリーからの救出訓練、フェリー・大型石油タンク火災消
火訓練などが実施されているほか、別会場である関西空港では空自
のC-1輸送機を使った負傷者の広域医療搬送が、ちきりアイラン
ドの訓練と並行して行なわれています。
ちきりアイランドにおいて被災地の情報収集からすべての訓練が終
了するまで約70分。14時15分の閉会式をもって、国と大阪府など2
府7県による東南海・南海地震を想定した初の合同防災訓練は終了
しました。
25ヘクタールの仮想孤立化地域内では、わずか70分の間に状況がめ
まぐるしく変化しました。
孤立無援だった被災地に、まずは空からのアプローチで初動対処部
隊が乗り込んでからは、人、装備、技術、そして使命感を総動員し
た陸自の組織力を目の当たりにしました(これは浜工業公園でも同
様です)。その陸自の実力を余すところなく発揮するために不可欠
な海・空自衛隊との連携も、統合運用によりスムーズに行なわれま
した。
また、地方自治体との確かな信頼関係も、当然ながら訓練当日に突
如培われたものではありません。第37普通科連隊長の「関係機関と
の連携は、災害発生時に突然できるものではありません。自衛隊が
防災計画を作る段階から各機関の関係者同士で調整しあい、お互い
の能力を踏まえ、平素から連携しています」というコメントを思い
出しました。
この合同防災訓練以降も、日本はいくつもの災害を見舞われました。
幸か不幸か、それが自衛隊OBを危機管理監や防災監として採用する
自治体の増加につながりました。今では全都道府県に自衛隊OBの危
機管理監が常駐しており、市町村でも自衛隊OBの防災監採用が進ん
でいます。
国の防衛という任務に携わってきた自衛官が、退職後に在職中に培
った専門的知識等を活かして地方公共団体に採用されることは、自
衛隊と地方公共団体との緊密な協力関係を構築できるだけでなく、
相互の連携の強化にもつながります。
いざ災害が起こると部隊からLOと呼ばれる連絡要員が(だいたい1
尉クラスの幹部自衛官が赴きます)県庁などに「出向」するのです
が、その際も部隊用語を理解でき、自衛隊が災害派遣でできること
を把握している危機管理監や防災監の存在は大きな役目を果たしま
す。
それにしても、「作業かかれ!」「聞こえますか? もう大丈夫で
すよ!」といったあちこちで飛び交う号令や被災者へかける声、そ
してヘリのローターや車両のエンジン音が、ここまで被災地に生命
の息吹を灯すとは。防災訓練を終始取材して強烈に感じたのはその
ことでした。騒々しくも思えるかもしれないその雑多な音は、実に
生命力にあふれていたのです。
最後に、橋下府知事(当時)より送られた自衛隊と自衛官へのメッ
セージで締めくくりたいと思います。
「知事に就任以来、自衛隊のみなさんとはいろいろと交流をさせて
もらい、本当に志高く仕事をされていると常々思っています。東南
海・南海地震のような大災害が発生した場合、自衛隊の活躍がなけ
れば府民、近隣県民の安全・安心は守れません。みなさんは日々命
を懸けて仕事をされています。いざというときはぜひその力を貸し
てください。近畿の人々のためにも命を懸けて仕事をしていただき
たい、そう思っています」
(おわり)
(わたなべ・ようこ)
(令和元年(西暦2019年)10月10日配信)