自衛隊統合防災演習(4)

自衛隊統合防災演習の第4回目です。
自衛隊統合防災演習・機能別訓練では、自衛隊独自の訓練として、東南海・南海地震対処計画に基づく大規模震災災害派遣の際の初動対処要領などを演練しました。
この日はいよいよ政府主催の総合防災訓練と連携する総合訓練です。
朝6時30分ごろ、和歌山県南方沖でマグニチュード8・6、最大震度7の地震があり、大規模な津波も起きたという想定で訓練がスタート。
大阪府庁別館の大阪府防災情報センターでは大阪府災害対策本部図上訓練が行われ、自衛隊からは中部方面総監部監察官の1佐が出席、被害状況の確認や派遣部隊の展開などの報告を行ないました。8時30分からは福田康夫首相(当時)と橋下徹大阪府知事(当時)のテレビ会議も行なわれました。総理と知事の名前にときの流れの速さを感じます……
同じ大阪府庁内には、防衛省の連絡調整所も設置されています。これは政府の現地対策本部と総監部指揮所の橋渡し的役割を果たすところです。中部方面総監部調査部調査部長の1佐に話を聞きました。
「総監部にはメインの指揮所がありますがそこだけでは情報が集まらないので、政府の現地対策本部ができるところにわれわれもチームを派遣し、情報収集や調整などを並行的に行ないます。連絡調整所の重要な点は、警察や消防などさまざまなところから入ってくる被害状況などの情報を、余すところなく総監部に伝えることがまずひとつ。そしてもうひとつは、われわれのニーズの把握です。自衛隊にどんなことをして欲しいのかというニーズを吸い上げ、警察や消防の活動を掌握しつつアクションを起こすということです。また、海自・空自や統幕、防衛局など身内同士の連携も非常に重要です」
「現在の課題としては2点挙げられます。まず、東南海・南海地震が発生した場合、高知県の足摺岬や和歌山県の先端など、道路が途絶されて孤立すると予想されている地域に対していかに支援の手を差し伸べるかという点は、まだまだ詰めていく必要があります。ふたつめは情報の共有です。情報の共有は大事であると同時に、非常に難しいものでもあります。しかし自衛隊全体、関係機関全体で情報を共有することこそ、的確な救助活動につながっていくのです」
岸和田市の浜工業公園でも訓練が始まっています。
この公園には避難所が開設され、陸自のUH-1ヘリ2機により被災者が搬送されるほか、生活支援が行なわれます。
午前10時30分より自衛隊、大阪府、地元ボランティアら約2000人が参加して住民避難訓練が行なわれました。
避難所エリアには6人用の宿営用天幕が50張並び、ボランティアの高校生たちも隊員に教わりつつ設営を手伝っています。
生活支援を行うエリアでは、自衛隊の装備品がその威力を存分に発揮していました。
炊飯車の野外炊事1号は、200人分の主食と副食と45分以内に用意することができ、焼き物以外のあらゆる調理が可能です。210リットルの水を30分で沸騰させ、走行しながらの調理も可能というすぐれもの。災害派遣のために調達された器材というわけではありませんが、災害派遣のたびに被災者へあたたかい食事を配ることができる、非常に「国民に限りなく近い装備品」といえるでしょう。
今回は米を400キロ炊き、カレー900食、おにぎり1100食を用意するとのことでした。
1日に1200人が入浴できる野外入浴セットは、浄水セットを使えば河川の水でも利用できます。こちらは現在、千葉県内で展開中ですね。野外炊具1号と並んで国民に身近かつ喜ばれる装備品であることは間違いありません。何日も入浴できないストレスは相当なものです。少し古い話になりますが、阪神淡路大震災の際に野外入浴セットが使われた際、時間ごとに男女の入浴時間を区切って利用してもらっていたところ、ある女性が時間に間に合わず入浴できなかったそうです。するとその女性は「男性が入浴していてもかまわないから使わせてほしい」と涙ながらに頼んできたといいます。女性にそこまで言わせるほどの状況だったのでしょう。身ひとつで逃げてきた被災者がいかに辛い状況に置かれていたかが如実にわかる、胸の痛くなる話です。
また、不潔なトイレは衛生上問題があるだけでなく、精神的にも大きなストレスになります。避難所になっている場所のトイレが避難者の数に対応しきれず汚れ、そのトイレを使いたくないがために水分摂取を控えた老人が体調を崩すという話はよく聞きます。
今回設置された野外トイレはドライレット方式という方法で汚物を処理するのですが、大人ふたり分の大小便がカメラのフィルムケースひとつ分サイズになり、さらに一般ごみとして処理できます(デジカメしか知らない人はフィルムのサイズがわからないかもしれませんね)。
このような装備品の数々を見ていると、衣食住すべてを自分たちでまかないつつ救助活動を行なえる自衛隊の自己完結能力の高さを改めて思い知らされます。この公園で装備品を運用し、ボランティアをサポートし、高校生の質問に答え、視察に訪れた橋下知事にその働きぶりを感心されたのは、第36普通科連隊や第3後方支援連隊補給隊でした。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和元年(西暦2019年)9月26日配信)