自衛隊統合防災演習(3)

自衛隊統合防災演習の第3回目です。
演習では野外手術システムの洋上訓練も行なわれました。今でこそ陸海空自衛隊の合同演習は当たり前のように行なわれていますが、このときの「中部方面衛生隊の野外手術システムを海自の輸送艦『しもきた』に搭載して艦内で展開する」という訓練は、過去に例のない陸・海合同訓練でした。そのため、陸自も海自も手探りのところが多々ありました。
この訓練の想定は「地震によって陸路が断たれた孤立化地域の負傷者は、救助されても救急車で病院に運ぶことはできない。そこで被災地の遠岸に停泊した輸送艦内に野外手術システムを搭載し、輸送艦を救急病院とする」というものでした。
まずは約3時間かけて内甲板に手術室や病室などを開設し、翌日に災害派遣2日目の朝という想定で訓練が始まりました。
艦内に患者が運ばれてくると、まず術前処理が行なわれるエアドームでトリアージを実施、手術が必要な患者は奥の手術室へ、治療が済んだ患者は天幕の病室へと移動します。
医官の「ここは痛みますか?」「深呼吸できますか?」など、はっきりとした大きな声が内甲板に響きました。
中部方面衛生隊第104野戦病院隊の1尉は、今回の訓練で病室長として、病室に運ばれてきた患者のベッド配置をはじめとした患者全般の管理を担当しました。
「艦内に救護所を展開するというのは初めてのことです。留意点としては、まずは海自との連携ですね。次に、普段は野外に設置する手術システムを艦内で使うんですから手狭感があるのは当然のこととして、その限られた空間でいかに患者の負担なく病室まで運ぶかという動線の確保です。一方、艦内ならではの利点は、地上だったらどうしても避けられない砂埃がないので、地上ほど過敏に感染防止に気を付けたり、対策を考えなくてはいけない部分が少ないことです」
「想定外のこととしては、意外と艦内の騒音が響いたことでしょうか。騒音のために情報の伝達に不便を感じるときがありましたが、こういうことも一度やってみないとわからなかったことですね。けれど一番懸念していた海自との連携についてはスムーズにいったと思います」
今後の課題も聞いてみました。
「患者のためにも、それぞれの施設の室温管理が必要ですね。エアドームはエアコンが付いているんですが、天幕の病室は扇風機なんです。あとは艦内で使えるコンセントの位置や数について把握しておいたほうがいいということも、今回の訓練で気づきました」
実は取材時、内甲板に陸自の野外手術システムの一部を海自のフォークリフトで設置しようとしたところ、システムはフォークリフトでは持ち運べないサイズであることが判明。フォークリフトを操縦する隊員は何度か試みましたが、無理なものは無理。結局このときは設置を断念し、訓練開始までに別の方法で設置しました。
この一連のやりとりを目の当たりにして、あまりにも単純なミスに、思わず「一般企業だったら上司からどんな叱責を受けるだろう」と思ってしまいました。事前に確認するという考えがなかったほど、当時はまだ陸海空の横の連携が希薄だったのです。こういう時期を経て、現在の「機能する統合運用」があるのですね。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和元年(西暦2019年)9月19日配信)