自衛隊統合防災演習(2)

自衛隊統合防災演習の第2回目です。
実働訓練のメイン会場は、大阪府岸和田市にある埋め立て地、「ちきりアイランド(阪南2区)」約500m四方、および「浜工業公園」を「地震と津波によって陸路が寸断され孤立化した某被災地」に見立て、ここを舞台に情報収集、道路啓開および応急架橋、空中機動、倒壊家屋からの救出・救助、海上機動、座礁フェリーからの救出・救助、避難者空輸、救護所開設および給食・入浴といった生活支援等について、陸海空自衛隊と関係機関が協同して訓練します。
まず、孤立化された地域に救助部隊の先陣として投入されるのは、陸上自衛隊第37普通科連隊(信太山)です。
崩落した列車、半壊したビル、埋没あるいは倒壊した家屋などから人の救出を行ない、衛生隊のもとへ運ぶという一連の行動を担います。取材時、第37連隊長兼信太山駐屯地司令に話を聞きました。
「第37連隊の災害派遣担当地域は大阪の大和川以南と和歌山県全域なので、まさにわれわれが担当する地域で今回の防災訓練は行なわれます。連隊の災害対処能力を維持向上させるためのきわめて大きな機会だと捉えていますので、隊員への要望事項としては、任務の完遂、関係機関との連携、そして安全管理の3つを掲げています。また、海上・航空自衛隊、警察、消防、大阪府といった関係機関と実際に連携の確認をするという点でも大きな意義があります。大規模災害の場合、いかに早い段階で大規模な部隊を集中させるかが非常に重要です。たとえば山が多く海岸線の険しい場所で大規模災害が発生した場合、どうやって被災地まで行くのか。陸海空が連携し、いかに迅速に部隊を投入するか、その能力をより一層向上させる必要があります」
ある第37連隊第1中隊の1曹は、偵察活動が終わり次第救助活動を行なう役割を担う、いわゆる初動対処部隊に属しています。
「私の分隊は孤立した場所にヘリで向かい、被災地に到着したら列車やバスに残されている負傷者を救出、救護衛生の人と連携して応急救護所へ搬送します。つまり負傷者の確認とその搬出が自分たちの役割ですね。負傷者の搬送についてはもちろん急ぐ必要がありますが、打ちどころや怪我によっては急に動かしてはいけないこともあるし、搬出する順番の見極めも大切です。ただ速ければいいというものではないところが救助活動の難しいところですね。また、二次災害防止を実施しつつ重度の患者さんから運び出すのにも神経を使います」
1曹はこういう大規模訓練に参加する機会を得たことをありがたく思っているとも言いました。
「これほど大規模な訓練に参加できたことで、経験の浅い隊員にもとりわけいい勉強になり、自信もついたようです。きわめて限られた時間で他機関と連携し調整し動くというのも、やはりこういった訓練でないかぎり体験できないですからね」
会場のちきりアイランドを見渡してみると、長短3つの橋がかかっています。いちばん長いのは海の上に架けられた全長135mの92式浮橋。各45mの陸橋は自走架柱橋とMGB橋です。
ここは陸路を途絶された孤立地域という設定なので、本格的な救援活動を行なうには一刻も早く陸路を復活させなくてはなりません。
そんなときに登場するのが陸上自衛隊の職人集団、施設科に属する部隊です。今回92式浮橋を架橋し、その職人技を余すところなく発揮するのは、第4施設団第102施設器材隊架橋中隊(大久保)。消防や警察も救助活動は行なえますが、橋を架ける装備や技術を持っているのは自衛隊だけです。
「施設団の中でもいろいろな職種がありますが、架橋中隊は車両を通すことが主任務です。今回の架橋の最大の難関は潮の満ち引きですね。私は4~5か月前の測量の段階からこの自衛隊統合防災演習に携わっていますが、当初からずっと潮の満ち引きとの戦いでした。地形がころころ変わるので、それに合わせて92式浮橋の使用時間も変わりますし、遠岸・近岸の接岸設備を撤収する必要も出てきます。なお、橋が架けられない状況の場合は、門橋を渡し船のように使って車両を運搬します。消防車両は自衛隊車両に比べて比較的床が低いつくりなので、いかに通すか苦労しました。緩やかな傾斜で架橋に出入りできるようにしなければいけませんからね。実験段階では引っかかったりしていましたが、今はスムーズに通過可能です。すべての車両が粛々と浮橋の上を渡り終えたときは、やはりほっとしますね」
架橋中隊の3曹はそう話してくれました。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和元年(西暦2019年)9月12日配信)