自衛隊統合防災演習(1)

今世紀前半に発生する可能性が高いといわれている東南海・南海地震。内閣府の中央防災会議によると、東南海・南海地震が発生した場合、想定規模はマグニチュード8.6、死者1万7800人、建物倒壊36万棟、という被害が想定されています。
自衛隊統合防災演習取材時は、この東南海・南海地震を想定していましたが、現在はさらに深刻かつ甚大な被害が見込まれている南海トラフ地震を想定した訓練となっています。
マグニチュード9.1、想定死者数23万1000人、全壊・焼失する建物は最大約209万4000棟という数字には、思わず絶句してしまいます。高知県土佐清水市には、地震発生のわずか4分後に最大34mの津波が到達すると言われています。
ちなみに「南海トラフ」と言ってもその被害は広範囲で、都庁のある新宿区も震度5強の揺れが予想されていますし、日本海側の福井県でも2100棟の建物が全壊するという数字が出ています。
さて、災害時に救助活動を行う自衛隊の姿は、今やすっかり見慣れた光景となりました。
偵察から救援、被災地の生活支援まで行なうことができ、なおかつ支援活動中の自分たちの衣食住はすべて自分たちでまかなえる自己完結能力に優れた自衛隊は、災害時にその力をフルに発揮します。
その頼もしい姿が多くの人の目に触れるようになったのは、阪神淡路大震災以降のことです。2006年からは始まった統合幕僚監部による陸海空三自衛隊の統合運用によって、大規模災害により迅速に対応できる体制も整いました。
しかし被災地の救援に向かうのは自衛隊だけではありません。
警察、消防、海上保安庁、そして市町村や都道府県など、関係機関との円滑な連携がなければ救助活動に無理や無駄が生じ、それぞれの機関の能力が有効活用できないこともありえます。
一方、自衛隊や警察、消防などがそれぞれ異なる互いの利点をうまく生かせれば、自衛隊だけで動くよりもさらに迅速かつ広範囲に救援活動が行なえ、より多くの人命を救うことにつながります。
そのためにも今回のような合同防災訓練は非常に大切です。
2007年までの政府防災訓練や自衛隊統合防災演習は、首都圏直下型地震や東海地震の発生を想定して南関東や東海地方で実施されてきました。
2008年からは南海・東南海地震発生を想定し、近畿地区で実施されることになったわけです(前述したとおり、現在は南海トラフ地震を想定し、東海地方や四国、九州でも統合防災演習が行なわれています)。
もちろん陸上自衛隊中部方面隊も定期的に東南海・南海地震対処総合演習を実施、機関ごとの防災訓練はこのエリアでも行なわれてきました。しかし政府計画の総合防災訓練となれば参加機関の数も規模もけた外れに大きくなるので、より実践的な訓練が可能となります。そういう点からも、近畿圏で初めて大規模な合同防災訓練が開催されるという意義は大きいのです。
統合防災演習は、実動演習と指揮所演習からなり、今回取材した実動演習は、8月29~31日を「機能別訓練」、そして政府と府などが同じ場所で開く総合防災訓練に参加する9月1日を「総合訓練」と区分しました。
参加部隊は、陸自が中部方面隊第3師団を中心とし、その他各方面隊、中央即応集団、通信団、警務隊、施設学校および補給統制本部より人員約1000名、車両約370両、航空機約20機。
海自は人員約200名、車両約10両、艦船2隻、航空機1機。
そして空自は人員約300名、車両約30両、航空機約10機といった具合に、数字を見ただけでも今回の訓練の規模の大きさがわかります。
実働訓練のメイン会場は、大阪府岸和田市にある埋め立て地、「ちきりアイランド(阪南2区)」約500m四方、および「浜工業公園」。
訓練はマグニチュード8・6、震度7の地震が起きて大阪府周辺で重大な被害が発生したという想定で行なわれます。
ちきりアイランドと浜工業公園は、地震と津波によって陸路が寸断され孤立化した某被災地ということになっており、ここを舞台に情報収集、道路啓開および応急架橋、空中機動、倒壊家屋からの救出・救助、海上機動、座礁フェリーからの救出・救助、避難者空輸、救護所開設および給食・入浴といった生活支援等について、陸海空自衛隊と関係機関が協同して訓練するのです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和元年(西暦2019年)9月5日配信)