自衛隊の「平成の30年」(3)

自衛隊の「平成の30年」、最終回の今回のテーマは「中国」です。
平成の世の間に時代は21世紀となり、9・11に象徴されるように脅威の対象は国だけではなくなり、しかも容易に国境を越え、もはやどの国も一国のみでは自国の安全を守れない時代となりました。
もちろん日本も例外ではありません。国民の命を守るための法整備を行なうことが不可欠として2016年に施行されたのが、平和安全法制整備法と国際平和支援法という新法、いわゆる平和安全法制です。これにより弾道ミサイル防衛に当たる米艦艇の防護や後方支援が可能になったため、一部で「戦争法」という極端な反対論もありました。
そして自衛隊の大規模な組織改編に大きく影響しているのが中国の軍拡と海洋進出で、尖閣諸島周辺を含むわが国周辺でその活動範囲を一層拡大しています。
政府が2012年に尖閣三島(魚釣島、南小島および北小島)の所有権を取得して以降、中国公船が尖閣諸島周辺のわが国領海へ断続的に侵入、2016年6月には、中国海軍戦闘艦艇が尖閣諸島北方のわが国の接続水域に初めて入域しました。同年12月には空母を含む中国海軍艦艇が沖縄本島・宮古島間を通過し、同空母の西太平洋への進出が初めて確認されています。
つい先日、7月14日にも尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域を中国海警局の船4隻が航行。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは29日連続となりました。
東シナ海・南シナ海における「公海自由の原則」をめぐる動向について、防衛白書には「国連海洋法条約は公海における航行の自由や上空飛行の自由の原則を定めているが、東シナ海においては航行の自由や上空飛行の自由の原則に反するような行動事例が多数見られている」という旨が記載されています。その例として、2013年1月に東シナ海の公海上で中国海軍艦艇が海自護衛艦と艦載ヘリに対して火器管制レーダーを照射した事案を挙げています。韓国海軍よりも先にやっているのです、中国。
また、同年11月に中国政府は尖閣諸島をあたかも中国の領土であるかのような形で含む「東シナ海防空識別区」を設定し、当該空域を飛行する航空機に対し中国国防部の定める規則を強制し、これに従わない場合は中国軍による「防御的緊急措置」をとる旨を発表しました。もちろん、到底受け入れられる話ではありません。しかし2014年には東シナ海上空を飛行していた海自機および空自機に対し、中国軍の戦闘機が異常に接近する事案が発生しています。
海洋のみならず中国機に対するスクランブルも増えました。2018年度の空自機による緊急発進回数は999回。前年度と比べ95回増加し、 1958年に対領空侵犯措置を開始して以来、過去2番目の多さとなりました。このうち中国機に対する緊急発進回数は638回で前年度と比べて138回増加、スクランブルの約64%の割合です。
現在の自衛隊が部隊や装備を西方重視としているのは、すべて「対中国」によるものです。毎年夏に行なわれる「富士総合火力演習」のシナリオも、ここ数年は「島しょ防衛」をテーマとしています。
かけ足ではありましたが、ベルリンの壁崩壊で始まった平成の30年間は、自衛隊にとってもまさに激動の時代であったことを振り返りました。日本が国際社会の一員としてその役割を果たす手段のひとつが自衛隊であるならば、令和の時代も自衛隊の活動が国内のみにとどまることはまずありません。そして今はなんとなく関係が悪くないような空気のある中国ですが、あくまでも表面的なものにすぎず、根本はなんら変わっていないことは周知の事実です。日本がもっとも警戒しなければいけない国は、今日の時点でもやはり中国です。
「陸と海は文化も言語もなにもかも違う」と旧軍からの犬猿の仲を引きずってきた自衛隊も、2005年には陸海空自衛隊による統合運用がスタート。今や災害派遣で3種類の作業服が混在している光景は珍しくありませんし、共同訓練も当たり前に行われています。平成の世の間に起きた素晴らしい進化のひとつだと思います。
2007年には防衛庁から防衛省となったことも大きな出来事でしたし、憲法改正まで議論されるにいたったのが自衛隊の「平成」でした。
(了)
(わたなべ・ようこ)
(令和元年(西暦2019年)7月18日配信)