陸上自衛隊第14旅団協同転地演習(4)

注目の16式機動戦闘車を揚陸するLCACは、「おおすみ」など輸送艦3隻に2艇ずつ搭載されています。乗員はそれぞれ役割の異なる乗員5名(操縦、機関操作、レーダー員、見張り員、甲板員)のほか、艇指揮を行なうOIC(幹部)が乗り込みます。
搭載量は通常60tですが、過積載で75tまで可能です。速力は約40ktと高速ですが高波に弱く、波高2m以上になると燃費が悪くなります。ちなみにLCACにはクルー専用の服があるのですが、あまり知られていないですね。
さて、いよいよ沼津の沖合に停泊している「おおすみ」から出た2隻のLCACが、轟音とともに揚陸地点へと発進しました。
第14偵察隊のバイクは揚陸後、すぐさま周囲の警戒に当たります。15即機連の120mm迫撃砲や96式装輪装甲車、14施設隊の道路障害作業車、14通信隊の電装品修理車、14特殊武器防護隊の除染車や化学防護車、14後方支援隊の衛生車両なども続々と揚陸されていきます。
砂浜にスタックする車両もありましたが、道路マット敷設後は比較的順調に揚陸されました。「自衛隊の訓練があるらしい」と現地に集まって来ていた一般市民の目の前で車両が立ち往生する光景は、部隊側としては歯がゆい思いだったかもしれません。しかしこういった課題を発見することにも訓練の意義はあります。いざ有事の際、あるいは災害派遣の際にこういったトラブルを回避できるようにするためにも、訓練における恥はかいていいものがあると個人的には思います。
注目されていた16式機動戦闘車3両も初の揚陸を無事にこなし、その大きさがひときわ目を引いた、北海道の美唄駐屯地から参加した第1特科団隷下の第2地対艦ミサイル連隊の88式地対艦誘導弾も揚陸。「おおすみ」と浜辺を何往復もしてすべての車両を揚陸した2隻のLCACを、陸自の隊員が海自のあいさつ「帽振れ」で見送っていました。
今回の協同転地演習を通じて感じたのは、陸上総隊を創設して一元的な運用を可能とし、水陸機動団の発足によって南西諸島防衛への即応力を高めながらも、輸送力不足という不安を相変わらずぬぐい切れないことでした。
陸自には現在、独自の海上輸送力がありません。水陸機動団にしても、敵前上陸する専門部隊である米海兵隊の日本版ととらえられることが多いものの、米海兵隊が所有している空母と輸送艦の機能を持った強襲揚陸艦はありません。米海兵隊が海上輸送に関して自己完結できるのに対し、水陸機動団は海自や空自の輸送力に頼るしか術がないのが2018年7月現在の自衛隊でした。どれほど訓練によって搭載や揚陸を迅速に行なえるようになったとしても、そもそも現場に運んでくれる手段がなければ話になりません。
陸自が独自の海上輸送力の整備を検討しているというニュースを耳にしたこともあります。もしもそれが現実で、陸自の装備品に離島防衛において機動力を発揮できるサイズの輸送艦が備わるのなら、25大綱で掲げていた「統合機動防衛力」がよりリアルなものとして迫ってきます(注:現在は30大綱となっていますが、この訓練が行なわれた時点ではまだ30大綱は策定されていませんでした)。乗員の教育や輸送艦を運営するスキルなど課題は多いですが、「始めなければいつまでも始まらない」のですから。
揚陸訓練終了後、「おおすみ」は横須賀基地で支援物資を積み込み、豪雨によって陸の孤島と化した母港のある呉へと向かいました。呉に到着後は民間物流車両の輸送支援も実施。「おおすみ」に搭載されていたLCACは江田島市民の輸送艦「しもきた」での入浴支援のため、被災者を載せて飛渡瀬からから「しもきた」の間を往復しました。江田島市民が乗せて「しもきた」に向かうLCACの映像をニュースで目にされた人もいるのではないでしょうか。
14旅団も善通寺駐屯地へ帰隊後はすぐさま災害派遣に参加したはずですが、高速道路の通行止めなどが各地で相次いでいたから、静岡から香川までの移動はかなりの苦労があったと思われます。
平成30年7月豪雨という自然災害とほぼ同時期に実施された協同転地演習は、成果と課題いずれも見えた訓練となりました。それが14旅団のさらなる精強さへつながることを期待しています。
(おわり)
(わたなべ・ようこ)
(平成31年(西暦2019年)3月21日配信)