第2師団集合教育「レンジャー」(4)

隊容検査では30kg以上の重さになる背嚢の中身を広げ、過不足はないかひとつずつ復唱しながら確認していきます。
しかし学生のひとりがタオルに飯ごう、乾パンと豪快に忘れ物をしていたり、電池の消耗で無線が通じなくなっている班があったりで、助教から容赦なく叱責の大声が飛びます(学生たちはなにを言われようがひたすら「レンジャー!」と呼唱するのが決まりです)。
「お前なんだよ、動かないって言ってた腕、動くじゃないか。演技か?」。
腕を痛めている学生にも、助教が容赦なく突っ込む。その一方で、体調がすぐれなさそうな学生には、至近距離で静かに会話を交わし体調を見極めています。教官・助教の「飴と鞭」というか緩急の使い分けは、はたから見ていても絶妙で見事なものでした。
すべての確認が終わると「パンと牛乳以外しまえ」という指示。どうやら朝食は食べられるようです。よかった!
リペリングを終えて水路潜入する天塩川の河川敷に到着すると、地域を安全化して占領してからボートの準備が始まりました。この辺りの天塩川の平均水位は約118cmとさほどの深さではありませんが、流れが速いです。
重量のあるボートの底面を地面にこすらないように気をつけながら急な傾斜を下りて川に浮かべるのはなかなかの重労働で、助教も「持てよちゃんと、引きずるな!」と叱咤しつつ、自身もボートを運んでいます(はたから見ていると、この助教のサポートにすでにふらふらの学生たちは相当助けられたはずです)。
ボートにうまく乗り込めず全身ずぶ濡れになる学生、助教が乗り込む前にボートが出発してしまいそうになる班など、かなりのどたばたが繰り広げられつつ、それでも無事に6艇のボートが天塩川を下りはじめました。
上陸地点では、川面からボートを持ち上げて運ぶのがまた一苦労です。
ボートには学生の背嚢が人数分乗っているので、数mとはいえ数十度の急斜面をボートの底面をつけずに持ち上げるのは至難の業なのです。
川面にボートを浮かべるときと同じく助教がかなりサポートしているのですが、余裕のない学生たちは気づいているのか……
最終想定初日にして、すでに疲労の色が強く見える学生が目に付くのが気になります。付与された状況すべてを遂行できるのか、指導部もやきもきしているかもしれません。
最終想定2日目。
爆破する橋梁への道中は、負傷した学生が隊列から数100m遅れ、さらにその学生の荷物をほかの学生たちで分担して持つので、全体のスピードも遅くなりました。取材陣も撮影ポイントで待ちぼうけです。
学生たちで戦闘隊を編制しているという状況なので、たとえ負傷者ひとりに足を引っ張られるとしても、捨て置くという選択肢はありません。
また、苦楽を共にするバディが故障して最終想定でリタイアということになれば、相方は「自分の力不足で卒業させてやれなかった」と、悔いを一生引きずるといいます。
取材陣のいるところまでようやく姿を現した学生たちの足取りは重いものでした。
バディに手を引っ張られ、かろうじて歩いているうつろな表情の学生もいれば、顔色を変えることなく余力十分といった学生もいます(ただし元気な学生は、その分重い荷物を持たされるなどの負荷をかけられるそうです)。
疲労困憊の極みで、とても偵察の任務などこなせそうもない学生も見受けられます。
基本訓練では優秀だった学生が行動訓練になってからはもろさを露呈したり、逆に基礎訓練で特に目立たなかった学生が最終想定で活躍したりすることもあるそうです。柔剣道やスキーの選手に選ばれるような学生が、自分よりも小柄なバディに背中を押されていたりもするから、極限に追い込まれた人間はわからないものです。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成31年(西暦2019年)2月7日配信)