第2師団集合教育「レンジャー」(1)

今週から、2018年7月に取材した陸上自衛隊第2師団のレンジャー教育についてご紹介します。記事は「丸」や「パンツァー」に掲載したのですが文字数の関係で削除した部分も多かったので、このメルマガではノーカット版でお届けします。
7月の名寄駐屯地、その一角に建つかなり年季の入った建物の2階。屈強な隊員がずらりと並んだ2段ベッドで熟睡しています。その眠りを一瞬で覚ます音が、突如鳴り響きました。
「非常呼集!」
一斉に飛び起きた隊員たちは2曹、3曹、士長の階級ですが、今は全員が学生と呼ばれる身分。いよいよレンジャーバッジを手にするための最後の山、最終想定が始まります。
2018年5月7日から7月31日までの約3カ月間、第2師団の平成30年度師団集合教育レンジャーが実施されました。
レンジャー徽章を付けている隊員は「あの過酷な教育を耐えたのか」と一目置かれ、レンジャー徽章を知る一般人からも「レンジャー隊員だ」と注目されます。2018年3月に新編された水陸機動団、そしてその前身である西普連こと西部普通科連隊にはレンジャー隊員が多く、南西諸島防衛がいかに重要視されているかがそれだけでわかります。
また、精鋭部隊である特殊作戦群や第1空挺団に所属する隊員も、基本的にほぼ全員がレンジャー隊員です。
有事の際には、主力部隊とは別に編成されたレンジャー隊員による少数精鋭チームが敵地内へ潜入します。
このような厳しい任務を完遂できる能力を身につけるのが、この師団集合教育です。つまりレンジャー教育の目的は、選抜された隊員に対し、主として遊撃行動により困難な状況を克服し、任務を完遂する能力および精神力を付与することです。
勝利を表す月桂樹の中央に、どんな困難な状況においても任務を達成する堅固な意志の象徴である金剛石(ダイヤモンド)が意匠されたレンジャー徽章。これを手にするため、今年も各師団で集合教育が行なわれました。
今回の第2師団のレンジャー教育における担任部隊は第3普通科連隊、訓練担任官は第3普通科連隊長武本康博1佐です。担任は師団の普通科部隊が持ち回りで行なっており、名寄駐屯地(3連隊)で実施するのは3年ぶりとなります。
レンジャー教育は、希望すれば誰もが参加できるというわけではなく、まずは資格検査に合格しなければなりません。年齢、身長、色覚、視力、血圧、心電図など身体条件をすべてクリアし、さらに背筋力、握力、肺活量などの身体能力も基準が定められています。
さらに手りゅう弾投てきや懸垂、土のう運搬など、8種類の体力検査に3種類の水泳検査をすべてクリアした者だけが、レンジャー教育に参加する資格を得られます。この資格検査のハードルはかなり高いです。
2師団では昨年度、心電図に異常があり検査をパスできなかったもののどうしてもレンジャーをあきらめきれず、今年は専門の病院まで足を運んで心電図検査を行なったところ異常なしと診断、ほかの検査もすべて突破し、晴れて今回の教育に参加した隊員もいました。
資格検査は職種に関係なく受検できますが、やはり敵地内に潜入し任務を遂行する普通科や機甲科(偵察)、施設科などの受検者が多くなります。それ以外の職種の隊員は、レンジャー隊員としての各職種部隊の任務を遂行して部隊に貢献するというより、自分の限界への挑戦といった意味合いが強いと思われます。
ちなみに原隊側はレンジャー教育に出る隊員に対し、「行ってこい」と快く背中を押してやるそうです。「部隊の人員が減って業務の負担が増える」といった愚痴は出ないそうですから、レンジャー隊員を輩出することは部隊にとっても誇らしいことなのかもしれません(実際、帰還式で出迎えた部隊の仲間たちの笑顔と祝福ぶりは、見ていてたいそう気持ちのいいものでした)。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成31年(西暦2019年)1月10日配信)