戦車射撃競技会(4)

台風一過の翌日は雪こそ残っているものの雲ひとつない快晴となり、絶好の競技会日和となりました。
昨日に射撃予定だった部隊は本番に向けて一度気持ちを盛り上げていただけに、仕切り直しとなってしまったのは気の毒ですが、逆に言えばそういった状況においても平素の力を存分に発揮できるかという実力を試す機会でもあります。
10式は最新戦車を運用するプライド、90式は長年培ってきた経験と実績によるプライドがあり、小隊、中隊、連隊とはまた違った戦いがあります。どちらの機種によっても負けられない戦いであることは間違いありません(これは昨年の話で、今年は10式と90式のガチンコ対決はありませんでした)。
前予想で「今年はあそこが強そうだ」といった話も出るそうですが、結局は自分の部隊の射撃精度が結果を左右するのだから、単にそんなやりとりで互いにけん制しあっているだけとか。
戦車部隊は「弾先」がすべてであり、弾先の練度を確認するのがこの競技会なのです。
ある中隊長は「いつも通り射撃を実施するだけ。自分たちのやってきたことを出せばおのずと結果は出ます」と表情を動かすことなく淡々と話していたのですが、自身の率いる小隊が競技を終えて戻ってくると打って変わって「実は昨夜は眠れなかったんだよ。よくやってくれた」と破顔し、隊員たちを出迎えていました。どの中隊長も似たような気持ちなのかもしれませんね。
見学者用のプレハブのそばには隊員用の天幕があり、自身の部隊の射撃を見学したり記録したり、あるいは録画したりする隊員で常ににぎわっています。
ひとつの小隊の射撃が終わり、次の小隊の状況が開始されるまでには25分のインターバルがあり、この間に支援要員が標的を張り替えたり履帯でがたがたに荒れた地面を整地したり、日によっては土煙が舞うため散水したりします。ここでも競技会を支える縁の下の力持ちがいるわけですね。
支援といえば、戦車回収車を率いて射場入りしている各部隊の直接支援中隊は、競技会に参加する部隊を支える立役者と言えるでしょう。「明日の朝までに直して欲しい」といった要望にも、徹夜になろうが確実に応える「支援魂」ともいえるスピリッツを、どの部隊からも感じます。
射撃を終えたある小隊長は、「適度な緊張がある中で普段の力を存分に発揮できたのは、先に競技を終えた同じ中隊からの情報提供や戦車を整備してくれる直接支援中隊のバックアップがあったからこそ」と言っていました。
この連載でも直接支援中隊の練度確認や戦車射撃競技会における準備の様子などをご紹介する予定です。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)12月13日配信)