平成30年西日本豪雨災害派遣(7)

災害派遣の連載は今回が最終回です。
2018年に複数の部隊が災害派遣活動を行なった災害も振り返ってみます。
●草津白根山における噴火に伴う人命救助等に係る災害派遣
1月23日、群馬県の草津白根山が噴火。草津国際スキー場において噴石により負傷者等が発生、スキー客らが山頂付近で一時孤立しました。群馬県知事から第12旅団長(相馬原)に対して、人命救助等に係る災害派遣要請がありました。本白根山での噴火は約3000年ぶりのことでした。活動規模は人員約280人、車両約75両、航空機9機、その他LO(連絡幹部)人員8人、LO車両4両。自衛隊のヘリコプターによる救助者数14人をはじめ、自治体等と協力し約80人の救助が終了したことにより1日で撤収となりました。派遣期間は1日とはいえ、この災害で特筆すべき点は、事故当日、このスキー場では第12ヘリコプター隊の隊員約30人がちょうど冬季スキー練成訓練を行なっていたことです。このうち上級者グループの8人が噴火口に近いコースで噴石により負傷、背中に噴石が直撃した3等陸尉が殉職したほか残りの7人も負傷しました。12ヘリ隊は災害派遣要請に基づき人命救助に係る任務を遂行しましたが、噴火による犠牲者を出した被災者側の立場でもあったのです。
●青森県上北郡東北町における燃料等の回収に係る災害派遣
2月20日、米軍三沢飛行場所属F-16戦闘機1機が離陸直後、エンジンからの出火により、外装燃料タンク2本を小川原湖に投棄しました。その燃料タンクから油が流出しており、21日に青森県知事から海上自衛隊大湊地方総監に対して燃料等の回収に係る災害派遣要請がありました。活動規模は人員約15人(延べ約255人)、車両2両(延べ約45両)、ボート2隻(延べ34隻)、その他LO人員5人、LO車両2両 (LO人員延べ68人、LO車両延べ25両)。水中探知機による捜索及び湖面の油膜等の確認を実施し、3月7日に撤収しました。
●大阪府北部を震源とする地震にかかる災害派遣
6月18日7時58分頃、大阪府北部を震源とする地震(マグニチュード6.1)が発生し、大阪府北部で最大震度6弱を観測。地震の影響により大阪府吹田市の国立循環器病研究センターで断水が発生したため、大阪府知事から陸上自衛隊第3師団長に対して、給水支援に係る災害派遣要請がありました。新たに同府箕面市及び高槻市においても、給水支援、同府茨木市において入浴支援の追加要請がありました。活動規模は人員約185人、延べ約1145人。車両約35両(延べ約280両。水タンク車延べ24両及び水トレーラー延べ32両含む)、航空機延べ12機。活動実績は給水支援合計46・7t(15か所)、入浴支援7951人(90か所)など。
撤収要請日時が6月26日なので、それから10日ほどで今度は西日本を中心とした豪雨による災害派遣に赴くことになった部隊もあります。
●北海道胆振東部地震
9月6日3時7分頃、北海道胆振地方中東部を震源とする地震(マグニチュード6.7)が発生、北海道厚真町で最大震度7を観測。北海道全域で停電が発生したほか、各地で土砂崩れや地盤沈下が起こりました。北海道知事から陸上自衛隊第7師団に対して人命救助及び給水支援に係る災害派遣要請がありました。自衛隊は10月14日にすべての活動を終了するまでに、人命救助46人、道路啓開7877m、給水支援1万186.9t、入浴支援2万4091人、給食支援16万6963食、輸送支援および厚真ダム支援等を実施しました。活動規模は人員約1000人(最大時約2万5100人)、 航空機5機(最大時46機 )、LO派遣先4か所(最大時29か所)。災害派遣に従事した第7師団の隊員たちは、震度5~6の揺れに見舞われた被災者でもありました。
もちろんここに挙げた災害派遣がすべてではありません。
今年に入ってから複数の山林火災、山崩れに伴う人命救助、行方不明船舶の捜索、暴風雪に伴う人命救助、除雪支援、スキー場における遭難者捜索、鳥インフルエンザ(殺処分等の依頼)など、自衛隊には毎月複数の災害派遣要請があります。
地震は多発し、活火山もあり、台風の通り道であると同時に世界有数の豪雪地帯もある日本に暮らす限り、自然災害はある意味避けて通れないものです。だからこそ自衛隊の災害派遣は不可欠なのですが、自衛隊の任務・役割が増えていくにも関わらず自衛官の充足率は常に満たされていないのが現実です。
隊員達は家族が被災しても、その家族を置いて派遣先の被災者のために汗を流します。あたたかい食事も湯船につかれる入浴も「被災者ファースト」です。この姿が国民の心を揺さぶり、現在の自衛隊は国民から自衛隊史上最高の好感度を獲得するまでになりました。
命の危機に面している時、あるいは被災して途方に暮れている時、陸路、海路、空路と機動力を駆使して助けに来てくれる自衛隊をどれほど心強い存在に思うかは想像に難くありません。それがたとえ法に基づいた活動であり「当たり前」のことだとしても、「ありがとう」の一言が隊員の疲れを吹き飛ばす最強の活力源だということは忘れずにいたいものです。
(了)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)11月15日配信)