平成30年西日本豪雨災害派遣(1)

今回から月刊『丸』10月号に掲載された、平成30年7月豪雨における自衛隊災害派遣の記事を加筆修正してお送りします。派遣部隊による災害派遣の出発から帰隊までを紹介するほか現地に赴いた隊員の貴重な声もありますので、最後までおつきあいただければ幸いです。
2018年6月28日以降の台風第7号や梅雨前線の影響により、西日本を中心に全国的に広い範囲で発生した豪雨。「平成30年7月豪雨」と命名された豪雨はとりわけ西日本にさまざまな被害をもたらしました。
自衛隊へは7月6日の京都府(同日に2度要請、7日も1度要請)を皮切りに、高知県、福岡県、広島県、岡山県から、翌7日は愛媛県、山口県から、さらに8日は兵庫県からと、災害派遣要請が相次ぎました。
防衛省は8日に災害対策本部を設置し、大雨災害としては過去最高規模の態勢での災害派遣を実施。ピーク時には陸海空3自衛隊合わせて3万人以上の隊員が投入されました。派遣期間の長さに違いはあるものの、東日本大震災が10万人規模の派遣だったことを考えると、今回の大雨による被害がいかに大きなものだったかがわかります。
ここで改めて、自衛隊の災害派遣の種類やその原則について確認しておきましょう。
自衛隊の機能を平時に活用する枠組みとして災害派遣があります。
災害派遣は都道府県知事等の要請(ただし特に緊急を要する場合は要請を待たずに派遣)に基づき、防衛大臣またはその指定する者の命令により派遣されます。
災害の発生時、自衛隊は地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索、救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送等の各種活動を行なます。また、航空機や船舶の事故等の救援、離島等からの急患空輸も災害派遣として実施されています。
自衛隊の災害に対する行動には自然災害による「災害派遣」と「地震防災派遣」、そして「原子力災害派遣」の3種類が定められており、それらの災害(防災)派遣をすぐに行なえるよう、平素からファスト・フォースと呼ばれる初動対処部隊を全国158カ所の駐屯地に待機させています。ファスト・フォースは一定規模以上の地震が発生するとヘリによる偵察を行ない、一時間を基準とした陸自の出動、また海自の初動対応艦の出動などの体制を整えています。
災害派遣には、
<1>情報収集
<2>派遣部隊投入
<3>災害派遣活動
という3つの大きな流れがあります。
まず災害が発生すると、自衛隊は災害派遣要請と前後して指揮所を開設、情報収集を行ないます。それにより部隊の投入地域を検討し、部隊の前進目標や経路を決め、自治体や関係機関との派遣活動に関する調整等を経て派遣部隊を投入。そして人命救助や生活支援、増援部隊の受け入れといった災害派遣活動を行なうという流れです。
なお、災害派遣の実施は次の3要件が基準となります。これは国民にも覚えていただきたいと思うところです。この3要件を知らないゆえに生じる誤解も少なくありませんし、無茶振りをされて困惑する現場の部隊が存在することも事実です(現実には国会議員ですらわかっていない人がいる始末です)。
公共性:公共の秩序を維持するため、人命または財産を社会的に保護しなければならない必要性があること
緊急性:差し迫った必要性があること
非代替性:自衛隊の部隊が派遣される以外にほかの適切な手段がないこと
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)10月3日配信)