陸上自衛隊の衣食住を支える需品科(4)

「野外炊具1号(22改)」、「浄水セット、逆浸透2型」などの比較的新しい装備品はまだ数が少ない上、操作や保守を行える隊員の教育には20週かかります。さらに年間に育成できる人数にも限界があるため、装備品も、それを運用する人員も不足しているのが現実です。ただ最新の装備品がなかなか増えないのも人手不足なのも、需品科に限った話ではありません。どの職種もどの部隊も、限られた人員で旧式の装備品の性能をフルに生かしているのです。
需品科は、陸軍では輜重兵の役目のひとつだった補給部分を担当する職種です。
昔の輜重兵は、歩兵や砲兵などに比べて格下に見られがちな風潮も一部にあったといいますが、現代の需品科にその名残はありません。
衣食住のサポートや補給なくして戦える部隊はなく、災害派遣においても真っ先に活躍するのは、需品科の隊員と需品学校で教育を受けた隊員たち。むしろ時代が進めば進むほど、後方支援や兵站の重要性が注目されてきています。
東日本大震災では被災者の支援が最優先で、被災地で救援活動に当たる隊員達の衣食住は二の次にならざるをえませんでした。連日の携行食にも隊員たちは愚痴をこぼさず黙々と働き、その結果、偏った食事によるビタミン不足で隊員達の多くが口内炎に悩まされることになりました。その教訓から、現在は各駐屯地にサプリメントと補助食が用意されています。
また、台風26号による土石流災害で大きな被害を受けた大島への災害派遣では、東日本大震災に次いで2例目となる陸・海・空自衛隊の統合任務部隊が編成されました。需品科が担う補給の面において、海自の輸送艦の輸送能力は頼もしい味方です。しかし海自の輸送艦も数に限りがあり、空自の輸送機C-2も決して十分な数とはいえません。陸自が独自に運用できる大型輸送機能があればという思いは募るものの(これについては次の連載でも触れたいと思います)、当面は今ある装備品を最大限に活用し、粛々と任務を遂行していくのでしょう。
今、需品科が向かい合っている課題は「即応性」です。物品がない離島を防衛(あるいは奪回)するにあたり、備蓄はどうするか、緊急輸送の手段、離島内においてできることといった点をクリアする必要があります。離島に補給処を造れれば理想的ですが、その動きが逆に他国を刺激する恐れもあるし、地元住民の理解なくして進めることもできません。
自衛官の衣食住をしっかり支え、災害派遣では被災者の立場になって支援する需品科の仕事。スポットライトを浴びる機会の多い戦闘職種と違い、需品科のような後方支援職種は災害派遣などを除き、なかなか注目されにくいものです。しかしなくてはならない存在であることは、おそらく他職種の隊員たちが一番よくわかっていることでしょう。
(おわり)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)8月9日配信)