陸上自衛隊の衣食住を支える需品科(2)

ある年の教育内容を見てみると、需品科の幹部はBOC(幹部初級課程)、AOC(幹部上級課程)などを通じて、補給を担当する部隊の指揮や運用について学びます。曹士の教育では、なんと航空自衛官も入校しています。空自のロードマスターが、航空機から物料を投下する際に利用する落下傘の特性などを学んでいるのです。需品科という職種のみならず陸海空という枠をも超え、需品学校で学んだ知識がそれぞれの部隊で生かされるというわけですね。
10週におよぶ初級陸曹特技課程の給養教育を受ける学生の3分の1は、この需品学校で生まれて初めて調理するという超初心者。そのためまずは包丁の持ち方から始まり、栄養や食品衛生などの講義を受けつつ、調理実習へと進んでいきます。
課程の後半になると野外調理能力を身に付けるため屋内を出て、野外炊具の扱い方からそれらを用いた実習を行ないます。
飯ごう炊事訓練では、キャベツ、じゃがいも、卵など限られた食材のみを用い、飯ごうを活用して調理する術を学びます(飯ごうでの炊飯は初体験という隊員も多数)。さらに食材が限定されていることで、炊事の創意工夫や調理技術の向上にも一役買っています。この課程を修了した隊員が、各職種部隊の給養陸曹として状況に応じて隊員の「食」に関わることになります。
一方、研究部における調査研究では、衣食住にかかる新たな装備品を開発するというより、被服など小物類の改善に重点が置かれています。また、個人の生存自活や部隊の行動への影響が大きいこと、品目や業務が複雑で多種多様なこと、需品科の技術は民需と共用するものが多いといった特性があります。
研修時、研究施設の一室では、迷彩服の耐性についてさまざまな方法で試験が行なわれていました。
火炎防護性の試験では、迷彩服の生地の下から火炎を当てて、生地上部が一定の温度に上昇するのに要する時間を計測し断熱性を評価していました。燃焼性試験(垂直バーナ法)では燃焼の広がりの程度などを測定することで、繊維の燃えやすさを判定していました。
このとき隊員のひとりが教えてくれたのは、駐屯地の売店で販売されている迷彩服についてです。見た目は官品とまったく同じでも、難燃性、防水性、透湿性などから耐弾性まで機能的にはそれこそ雲泥の差! があるのだそうです。だから一般の人が買う分には問題なくても、自衛官が「支給されているもののほかに予備が欲しい」といった理由から売店で見た目が同じ迷彩服を購入し、それを日常的に着るとしたら、万が一の時には命取りになる恐れもあるのです。こんなことは素人に言われなくても自衛官なら承知でしょうが、うっかりさんがいないことを願います。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)7月19日配信)