陸上自衛隊の衣食住を支える需品科(1)

陸上戦闘の骨幹である「歩兵」の普通科、戦車乗りの機甲科、航空機を運用する航空科など、陸上自衛隊には16の職種があり、それぞれ専門の役割を担っています。
名称こそ変わっているものの帝国陸軍から存在した職種が多い中、米陸軍のQM(Quarter Master)の日本版として戦後に誕生したのが需品科です。
「需品」という日本語自体があまり一般的に使われているものではないせいか、どんな仕事をするのか言葉だけでは見えにくいですが、簡単に言えば自衛隊の衣食住を扱う職種です。
需品科の隊員は約13万5000人いる陸上自衛官の約2%、3000名ほどしかいません。その人数で食料、燃料、被服など物品の補給から、給水、入浴、洗濯など陸上自衛隊の衣食住を一手に引き受けています。
有事の際に前線で戦う戦闘職種ではいませんが、需品科の仕事は前線にいる部隊と隊員の能力発揮、パフォーマンスに大きく関わっています。需品科の合言葉である「部隊の在るところに需品あり」からも、縁の下の力持ちとして自衛隊に不可欠な職種であることがよくわかります。
また、災害派遣では野外入浴セットなどによる生活支援も行なっています。被災地で「○○の湯」とのぼりを掲げているシーンをテレビなどで目にした人は少なくないでしょう。
衣食住を扱うといっても、需品科が洗濯をしたり調理をしたりするというわけではありません。幹部を含めても3000名しかいないのですから、むしろ他職種の隊員が実施することのほうがほとんどです。
「食」についても、海上自衛隊と航空自衛隊では「給養」という専門の職種の隊員が調理を担当するのですが、陸自は基本的に「全員調理できなくてはならない」というスタンス。野外においては生き残るためのスキルとして、すべての陸上自衛官が炊事する知識と能力を持っていなければならないから、あえて調理専門の職種は用意されていないのです。
つまり需品科の隊員は、部隊で補給隊(補給中隊)において食材の管理や支給を行うのが「食」に関する任務となり、演習などで実際に調理するのは、そのときどきに応じて編制される臨時の糧食班です。
そんなわけで、需品科の業務を学ぶ需品学校は、教育を受けている学生の4分の3が他職種という、他職種の学校にはない珍しい構成であるのが常となっています。
千葉県の松戸駐屯地内にある需品学校は、学生教育を行なう教育部や需品科にかかる調査研究を行なう研究部などからなります。数年前、記者向けの需品学校研修に参加し、装備品や教育内容について説明を受ける機会がありました。
需品学校で実施している教育訓練は、糧食、需品、燃料、水の補給、需品の整備、入浴・洗濯の需品サービス、空中投下業務、野外給食および補給管理など多岐に渡ります。東日本大震災以降、需品学校への入校希望者が従来の5~7倍にもなったそうです。震災を通じて、被災者の生活を支える業務に関わりたいという思いを強くした隊員がそれほど増えたということでしょう。
敷地内にはウバユリ、ウコギ、タケノコといった四季折々の植物が植えられており、食糧がなくなった際、学生自ら食用かどうか判断しサバイバルできるよう教えるのだとか。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)7月12日配信)