地方協力本部の仕事(2)

募集の流れとしては、まずは適齢者に対する情報発信からスタートします。
都営地下鉄車内、主要JR駅構内、自治体掲示板へのポスター掲示といった地道なものから、就職情報誌、マイナビやリクナビ等の就職サイトへの掲載、説明会の開催など、自衛隊を認知してもらうための活動は一般企業のそれと変わりません。
大学や予備校での説明会も積極的に行なっていますが、高校での説明会開催状況は1割弱と苦戦しています。担当教師がそもそも話を聞いてくれなかったり、「うちは進学校なので説明会は不要」と門前払いを食らったりすることも日常茶飯事だそう。説明会までたどり着けても、今度は保護者から「なぜ自衛隊の説明会をわざわざ高校で開く必要があるのか」と苦情が来ることもあるそうです。
とはいえ、自衛隊を就職先の候補として真剣に考える学生も当然います。
8月のある日に練馬地域事務所を訪れてみると、猛暑日にも関わらず3組の来訪者がいました。
母親と中学3年生の親子は、高等工科学校についての説明を受けに来たそうです。
男子大学生は自衛官候補生を受験するための志願票を記入するために来ていました。高校時代も進学か自衛官か進路に悩み、練馬地本はその時からの付き合いだとか。結局進学したものの経済的な事情でこれ以上在学することは難しくなり、自衛官になることを決めたとのことでした。
母親ひとりで来訪し、自衛官の募集種目の詳細を聞いている姿もありました。
立川グランドホテルで行なわれた自衛官採用説明会にも顔を出してみました。
東京地本が主催する高校生、専門学校生、大学生を対象とする説明会は、その年度はこの日が3度目とのことでしたが、入退場自由、予約不要、履歴書不要とあって会場は大いににぎわっていました。
まずは自衛隊の概要や募集要領を、地本の広報官が約1時間かけて説明します。
「自衛隊にないのはお坊さんと床屋だけと言われるほど多彩な職種があります」
「正直なところ、金持ちになれる職業ではありません。けれど使命感をもって働けるところです」
マイクを握る広報官の口調は淡々としていながら、語っていることは熱い!
概要説明後は、18ブース用意されたリクルーター役の自衛官との懇談が行なわれました。
陸・海・空現役自衛官の話を直接聞ける機会とあって、話に聞き入る学生達の顔は真剣そのものです。
リクルーター以外にも、会場には東京地本の自衛官が多数散らばり、学生達の質問にすぐ答えられるような態勢を取っています。
大きな会場を借りる、各部隊からさまざまな職種の隊員を招集する自衛官が対応するなど、この説明会ひとつ見ただけでも、募集にかける地本の力の入れようがよくわかりました。
ちなみに、制服好きにはリアル自衛官のリアル制服や作業服がずらりと勢ぞろいしている会場の光景は、さぞや垂涎ものだったことでしょう。今日はイベントではなく就活の場ですが……
情報発信の次は、ひとりでも多くの適齢者に受験票に当たる志願票を書いてもらうべく、採用セミナー、防大のオープンキャンパス、受験予定者の部隊見学などフォローアップを行ないます。そして受験、晴れて合格までたどり着いたら、今度はできるだけ辞退者を増やさないよう「つなぎ」の努力が続けられます。
実は募集業務で最も重要かつ業務の半分以上を占めるのが、この「つなぎ」なのだそうです。
せっかく合格しても「やはり自衛隊でやっていく自信がない」「本命の就職先から内定をもらった」「公務員試験に受かった」などの理由で、例年合格者の半数近くが入隊を辞退してしまうのです。自衛隊はあくまでも「本命がNGだった場合のすべり止め」というわけですね。そのため、自衛官の職業としての魅力ややりがいを理解してもらうことや、入隊後の不安を取り除くことが、地本の重大な責務なのです。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)4月19日配信)