地方協力本部の仕事(1)

熊本県のゆるキャラ「くまモン」が初代グランプリに輝いた「ゆるキャラグランプリ」。2011年から始まったこのイベントに、2013年に兵庫地方協力本部の「ひょうちん」が参戦して以来、毎年どこかしらの地方協力本部のゆるキャラがエントリーしています。また、岡山地本が作った陸・海・空自衛官の美少女公式キャラのデザインを手がけたのは、人気アニメ『ガールズ&パンツァー』の原画で知られる岡山県出身イラストレーター、島田フミカネさんでした。さらに宮城地本の公式Twitterは「呟き」の独創性と面白さが数年前から話題の人気アカウントです。
このように全国各地で「自衛隊を知ってもらいたい」「自衛隊を身近に感じてもらいたい」「自衛隊に興味を持ってもらいたい」とPRにいそしんでいるのが、陸・海・空各自衛隊の共同機関である自衛隊の地方協力本部、通称「地本」です。
装備が進化し近代化しても、それらを駆使して任務を遂行するのは隊員です。防衛力の基本をなすものは人であり、その人材を募集する役割を担っているのが地本なのです。
地本は全都道府県の県庁所在地にあり(北海道のみ札幌、函館、旭川、帯広の4カ所)、さらに全国400カ所に事務所や出張所、案内所を展開して募集業務を行なっています。雑居ビルの一角、歩道に面した窓一面に貼られた「自衛官募集中」の文字を目にしたことのある人は少なくないでしょう。募集業務のほかにも予備自衛官の人事・招集、退職自衛官の再就職援助といった各種援護業務も行なっています。さらに駐屯地や基地の見学・体験といった総合学習や、企業研修などを目的とする隊内生活体験の支援など、その業務は多岐にわたります。
東京地本の本部を例に挙げると、
・自治体及び関係部外機関との連絡調整を実施する企画室
・地本業務全般の管理運営・支援業務を統括する総務課
・自衛官募集業務を実施する募集課
・自衛官の再就職援護業務等を実施する援護課
・予備自衛官業務を実施する予備自衛官課
・広報及び渉外業務を担当する渉外広報室
から構成されています。
こうして見ると募集業務もほかの業務と同じ線上にあるように思えますが、各地でゆるキャラや美少女キャラまで作って地本がPRするのは、ひとえに未来の自衛官を確保するため。今回は東京地本の募集業務に焦点を当て、その具体的な活動や直面している課題などをご紹介します。
東京地本には自衛官約240名、事務官約40名、非常勤約20名の合計300名が所属しています。本部は数年前まで市ヶ谷の防衛省そばに位置していましたが、現在は東新宿のビル内にテナントとして入居しています。
都内62区市町村を城南、城東、城西、三多摩という4つのエリアに分け、合計20個の事務所を構えて募集業務を行なっています。募集のターゲット、いわゆる「適齢者」は18歳から26歳です。
城南エリアは中央区から世田谷区をカバー、伊豆諸島や小笠原諸島も含みます。人口約275万5000人のうち、適齢者人口は24.9万人。
城東エリアは江戸川区から文京区をカバー、人口約299万3000人のうち適齢者人口26.3万人。
城北エリアは北区から杉並区まで、人口290万4000人のうち適齢者人口29.1万人。
そして4エリアの中で最も広い面積をカバーする三多摩エリアは、三鷹市から奥多摩町まで、人口408万8000人のうち適齢者人口40万人となっています。
広報官として奔走する自衛官の担任規模で見てみると、ひとりあたり約1万2000人の適齢者人口を担当し、大学・短大、専門学校、高専、高校、中学は約17校を担当することになります。かなりのボリュームですね。
自衛官の募集種目は14種目あります。
その内訳は、幹部候補生、貸費学生(卒業後に自衛隊に勤務することを条件に防衛省が学資金を貸与する学生)、防衛大学校学生、防衛医科大学校医学科学生、防衛医科大学校看護学科学生、航空学生、一般曹候補生、自衛官候補生、高等工科学校生徒、医科・歯科幹部、技術海上・航空幹部、陸上自衛官(看護)、技術海曹、予備自衛官補です。
全国どの地本も募集業務を担っていますが、地域の色が非常に濃く表れるのがこの募集業務。
東京の場合は適齢者人口占有率に対して入隊数は低いものの、優秀校が集中する分、難易度の高い種目における占有率は高いのが特色です。言われてみるとなるほど、ですよね。ちょっと古いデータになりますが、2012年度は幹部候補生のうち30%、防衛医科大の29%、防衛大の11%が東京都出身でした。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)4月12日配信)