第5普通科連隊八甲田演習(5)

渡邉陽子さんのデビュー作

オリンピックと自衛隊

1964東京五輪は、自衛隊の支援なしに成功しなかった!
2020東京五輪も、自衛隊は同じ役割を求められることになる
知られざる自衛隊の苦難と栄光の歴史が、ここに明らかに!!
オリンピックに熱い思いを抱く、すべての人に捧げます。

自衛隊家族会発行「おやばと」、「隊友」160715号、 「月刊モデルグラフィックス」2016/8号「月刊丸」2016/8号160712「防人の道 NEXT」「歴史群像」8月号(学研)160701 桜林美佐の国防ニュース最前線、「月刊世界の艦船」2016/9号、160809 政治学者・岩田温の備忘録 で取り上げられました。





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第5普通科連隊八甲田演習(5)

その後、宿営地である深沢に各中隊が集まって来たのは正午前後。こんな早い時間に移動をやめてしまうのかと不思議に思ったところ、5連隊が冬季に臨時編成している冬季山岳救難救援隊の隊長である2等陸尉が理由を教えてくれました。
「冬季の山では、天候に関わらず15時くらいまでの行動が限界です。それ以降はぐっと気温が下がり、移動のリスクが大きいんです」
宿営地に到着したら、そこから雪濠を作らなければならず、夕方に到着したのでは作業中に日が沈んでしまいます。正午に到着するくらいでちょうどいいのだということが、宿営地到着後の隊員たちの動きを見て実感しました。

 

6人用の雪壕は1・5×3・5m、深さはしゃがんだ時に頭が飛び出さない程度。ブロック状に刻まれた雪は雪壕を囲む壁として積み上げられていきます。
頭上にはスキーの板を屋根代わりにして白いシートをかぶせ、雪壕同士は移動ができるよう交通壕でつなぎます。
それぞれの指揮官に声をかけられながら作業を進める隊員たち。その姿を見ているうちに、今回の演習であえて宿営を課した5連隊長の言葉がよみがえってきました。

 

「神成大尉が八甲田山中で『天はわれらを見放した』という絶望的な言葉を発したのと対照的に、同時期に八甲田山行軍を成功させた旧歩兵第31連隊の中隊長、福島大尉は『われわれは自然に打ち克つ気概がなければここで斃れる。決して負けないという気概をもってここで露営をしろ』と、部下を強く厳しく叱咤激励しました。窮地になればなるほど、指揮官の言動が隊員におよぼす影響がきわめて大きいことを感じます」

 

隊員たちは雪壕や交通壕を掘り終えると、敵の進入を想定しての戦闘配備の予行も行ない、その後は交替で歩哨に立ちながら翌朝までここで過ごします。ほんのすぐそばには深沢温泉があるのですが、演習中の5連隊には無縁のもの。隊員たちが座った姿勢のまま休養をとる雪壕内の気温は、氷点下まで下がります。

 

翌日は大中台まで約12kmの行程です。
朝はかなりの勢いで降っていた雪も次第に弱まり、凍傷と同時に熱中症の防止も大事という状況になっています。凍傷と熱中症の予防が同時に必要とは、北国ならではの過酷な環境です。

 

ルートを先回りして行進がやって来るのを待っている間、スキーをはかず新雪に足を踏み入れてみました。1歩目でずぼりと膝上まで雪に埋まりました。その歩きにくいことといったら、息ばかり上がりちっとも前に進みません。ほかの人が歩いた足跡をたどろうとしても、歩幅が違いすぎてもっと疲れてしまいます。旧5連隊は胸まで埋まる雪の中を泳ぐように進んだといいます。ほんのわずかな距離を歩いただけでも、その苦労の片鱗に触れた気がしました。

 

やがて、小さな点のようだった隊員たちの姿がどんどん大きく見えてきました。
顔に疲労の色が浮かんでいる隊員もいます。無理もありません。装備の重み、アキオの重み、寒さがしみる雪壕での宿営、寝不足、そしてスキーでの行進。それでも彼らは黙々と、ゴールに向けてまっすぐ伸びる大中台の一本道を歩き続けました。

 

旧5連隊の中隊長、神成大尉と同じ立場にあたる中隊長の3佐は、神成大尉はどういう思いで部隊を指揮したのだろうと考えたり、もし自分が当時の中隊長ならどんな対応ができたかと自問自答したりしながら行進していたそうです。きっとこの中隊長に限らず、どの隊員にもそれぞれ思うところはあるのでしょう。ただそれを顔に出さず言葉で発することもなく、黙々とスキーを進めることに専念しています。
見晴らしの良い雪原、周囲には八甲田の峰。聞こえるのはスキーの下で雪の鳴る音、そして隊員の息づかいだけ。そのシンプルな世界に、突然にぎやかな声や人の気配が飛び込んで来ました。ゴールです。
八甲田演習を体験してきた5連隊OBが、隊員たちを出迎えに来ていました。

 

 

 

(以下次号)

 

 

(わたなべ・ようこ)

 

 

 

 

(平成30年(西暦2018年)3月29日配信)

 





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