空飛ぶ船を操る第71航空隊(7)

第71航空隊、US-2の紹介の最終回です。
US-2機内の通路を挟んで救難航空士の隣に座っているのは機上電測員です。取材時の機上電測員は、US-1Aでは通信士だったそうです。US-2では通信士単独の仕事はなく、救難航空士が兼務するため、電測員として転換するための訓練中とのことでした。
「機上電測員はレーダーを使って要救助者の捜索を行なったり、エリアに行くまでの間に接近してくる航空機がないかなどをチェックしたりする、いわばUS-2の目の役割を果たします」
要救助者を探していると、つい近くに集中して遠くが見えなくなりがちだそうです。そこをフォローするのも機上電測員の大事な役割。
「赤外線は気温によって見え方がまるで違います。ですから状況に合った的確な調整をし、目標を少しでも早く探知できるようにします。その辺が、電測員としての仕事のやりがいかなと思っています」
訓練に同行してわかったのですが、訓練海域には船舶がひっきりなしに往来し、上空もあちこちに航空機が確認できました。それはちょっと思いがけないほどの混雑ぶりで、海も空も自在に往来できる空間などと間違っても思ってはいけないのだという意識を新たにしました。
ところで、洋上救難で現場まで赴いても、予想以上の波高で着水を断念することもあります(辛坊アナのときも第1便は波高が高く着水できず、実際に救助したのは3時間後に到着した第2便のUS-2でした)。
そういう場合は何種類かある間接救助を行なうのですが、やはり「降りられない」という悔しさが操縦士だけでなくクルー全体に広がるそうです。
無理もありません。遠いところでは片道2000km近い距離をはるばる助けにきて、いざ現場では天候不良や波高が高すぎるせいで着水できないなど、機内の空気も肉体も重苦しくならないほうがおかしいというものです。救助を待っていた人が眼下にいるというのに。「やっと来てくれた、助けに来てくれた」という救助者の歓喜から絶望へと一転する胸の内も、痛いほど感じることでしょう。
取材を終えて課業外にクルーと食事をしたのですが、救難航空士の機長が熱い心の内をたくさん聞かせてくれました。なお、US-1A、US-2の救助実績は、出動件数は1000件以上、救助人員1000名以上となっています。
さて、訓練を終えて岩国基地に戻ったUS-2は、散水装置で機体を洗浄して塩分を取り除きます。離着水する航空機は一度のフライトごとに洗浄する、まめなケアが不可欠なのです。
細かい部分は手で洗っている様子を見ていると、クルーの1人が機体の一部を指さして教えてくれました。
「ここのせり出し、なんだかわかりますか。スプレーストップといって、こんな何気ないものですが波よけの役目をしています。US-1Aにはありませんでした。われわれは“かつおぶし”って呼んでるんですけどね」
言われなければ気づかなかった変更点。大がかりな改造部分やこういった小さな変化も含め、さまざまな創意工夫と英知の結晶がUS-2なのです。
第4回に「インドに輸出するという話はどうなったんだろう」と書きましたが、1機140億円ともいわれるUS-2の価格がネックになっていることは間違いありません。ちょうど1年前、2017年2月の産経新聞に、防衛省が現性能を維持しつつ個々の部品をより安価なものに差し替えたり、製造方法に工夫を加えたりしてコストダウンを図った後継機、「US-3」の検討に本格着手したという記事が掲載されました。
ただしこれも繰り返しになりますが、買う側もただ買えばいいというものではありません。購入した機体を運用するためのクルーや整備員の育成には時間がかかりますし、仮にインドだとしたら、その養成機関がそもそもインドにはありません。まずは教官の育成から始めなければいけないのです。高性能な機体ではありますが、その機能を十二分に生かす技術を得るのがいかに困難か、US-2を知れば知るほど思い知らされることになるでしょう。
フライトを終えてからも、クルーは機上救助員を中心に、格納庫の一角に設けられた簡易ジムで筋トレに励んでいました。
どれほど性能が優れた航空機でも、それを扱う隊士にそれ相当の実力がなければ宝の持ち腐れになってしまいます。しかし第71航空隊は、救難飛行艇を運用していることにプライドを持っている隊員たちの集団です。そのプライドの陰には、それぞれの職種をより極めようとするたゆみない努力があるのです。
(おわり)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)2月15日配信)