空飛ぶ船を操る第71航空隊(3)

今日は71航空隊の話の前に、飛行艇に関するわかりやすい記事を見つけたので、そのご紹介から。
連載第1回に「世界で水陸両用の航空機を製造し運用しているのは、日本、カナダ、ロシアの3カ国のみ。しかし長距離が飛べ、波が高く荒い外洋に着水し遭難者をピックアップできる能力を持つ飛行艇と、その飛行艇を使いこなせる搭乗員の錬度を持っている部隊となると71空が世界唯一と言っても過言ではない」と書きましたが、昨年12月に中国が自主開発した大型飛行艇AG600の試作初号機が初飛行に成功したそうです。フォルムは結構US2に似ていますね。
https://www.jiji.com/jc/d4?p=flb112&d=d4_mili
上記サイトにはカナダやロシアの飛行艇、そして川西二式大艇まで、写真付きで掲載されています。
中国の飛行艇は大型であることが強みのようですが、飛行艇のスペックで注目すべきはどれほどの波高まで離着水が可能かという点です。どんなに大きな飛行艇を保有していても「波が荒いので出られません」という日ばかりでは宝の持ち腐れですから……
さて、今日はUS-2に乗り込むクルーを紹介します。
US-2は正副操縦士各1名、救難航空士1名(P-1やP-3Cと同じくTACOO、“タコ”の名称のほうがわかりやすいでしょうか)、機上救助員3名、機上救護員2名、機上整備員2名、機上電測員1名という計11名のクルーが乗り込み任務を遂行します。
機長は正操縦士か救難航空士の階級が高い方の隊員が務めます。パイロット=機長とは限りません。クルーのうち機長と正副操縦士の3名が幹部自衛官、ほかのクルーは海曹となっています。
救難航空士はタクティカルコーディネーターの名の通り、捜索のプランを立て、各クルーに指示したり航空機の誘導を行なったりするほか、US-1Aでは単独で配置されていた通信士の役割もこなします。
操縦席には正副操縦士が並んでいます。操縦は正操縦士が行ない、副操縦士は管制官とのやりとりを担当するほか、安全に関する注意を払うのが仕事。US-1Aを操縦していた隊員がUS-2を操縦するには機種転換し、US-2の操縦資格を得なければなりません。また、US-2の操縦士には、哨戒ヘリSH-60からの転換組も少なくないのです。
波高3mとなれば、操縦席の窓は波に覆われて視界がきかなくなります。一瞬たりともじっとしていることのない洋上に着水する恐怖心はないのか、取材時にひとりの操縦士に尋ねたところ、「着水よりも離水のときのほうが怖さを感じる」という意外な返事でした。着水の際は高い波と波の間を狙って降りられるし、無理だと思ったら何度でもやり直せる。しかし一度着水してしまうと、前方から3mの波が来たら、その奥の波はもう見えない。それが離水するときだったら、深くえぐれているような波があってもわからない。そのため離水の判断も難しいし、恐怖心との闘いでもあるというのです。ではその恐怖心をどうやって克服するのかといえば、日頃のたゆみない訓練と「勇気」なのだそう。これほど精密な機体を制御できる技量を持つ操縦士が最後に拠りどころとするものが自身の心の持ちようだということが非常に印象的でした。
パイロットのすぐ後ろには、計器監視と燃料管制を担当する機上整備員が座ります。往復の距離や天候などから燃料を考慮し、現地でどれくらい捜索活動ができるか時間を計算するのも機上整備員の役目。
通路を挟んで救難航空士の隣に座るのは機上電測員。レーダーを使って要救助者の捜索を行なったり、エリアに行くまでの間に接近してくる航空機がないかなどをチェックしたりする、US-2の目の役割を担っています。赤外線は気温によって見え方がまるで違うため、状況に合った的確な調整をし、目標を少しでも早く探知できるようにしています。また、要救助者を探していると、つい近くに集中して遠くが見えなくなりがちだそうです。そこをフォローするのも機上電測員の大事な役割です。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)1月18日配信)