自衛太鼓@音楽まつり(3)

「太鼓の先3mくらいを見ろ。下を向くな。口を開けるな。首を動かすな」
集合訓練で、山城曹長の指示が立て続けに飛びます。
山城曹長のスキンヘッドはトレードマークかと思いきや、「いやいや、実は円形脱毛症になっちゃったんで、つい最近剃ったんですよ。ストレスですかねえ?」。
12チーム、総勢200名以上を束ねる立場としての重責に加え、その年の自衛太鼓は音楽まつり史上初の「トリ」を務めることになっていました。いくら自衛太鼓が太鼓専門誌からも取材を受けるほどのクオリティを誇っていると言っても、心配や悩みは尽きないのでしょう。
山城曹長いわく、「太鼓の技術は、本職の人には叶いません。じゃあわれわれならではの見せ方は何だろう、それはばちの高さから目線の方向まで、ミリミリでそろえることができるという点です。それは自衛隊ならではの統制美です。また、約50キロもある太鼓をかつぎ、走って所定の位置に着くといったきつい動作も、日頃訓練で鍛えているからこそできるものです」
あの太鼓、50キロもの重さがあるのです。あれをかついでダッシュで所定の場所に行くことを何度も繰り返すわけです。女性隊員には重すぎるので、支援部隊が黒子に徹してサポートしていました。
実は、毎年観客に強烈なインパクトを与える自衛太鼓の演奏時間は、何と10分間しかありません(チームごとに単独演奏できる持ち時間にいたってはわずか20秒!)。
その限られた時間で武道館を興奮と感動のるつぼにしてしまうのだから驚きです。
それだけ隊員たちが熱い演奏を繰り広げるわけで、おのずと練習にも力が入ります。あまりに太鼓を打ち過ぎて、首の骨を疲労骨折してしまった隊員までいるほどです。
本番前日は、武道館でリハーサルが行なわれます。
ステージでの立ち位置やスムーズに入退場ができるかなどの最終確認が続きます。暗いステージで重い太鼓を持って走ると、太鼓と太鼓の間に指をはさんで骨折してしまうこともあるそうです。
総合リハーサルで万全の仕上がりを披露すると、身内である自衛官たちからも拍手があがりました。
山城曹長は言っていました。
「どのチームも皮の張り替えなど、太鼓の維持費捻出に苦労しているのが実情です。課業との両立できついこともあります。それでもやっぱり、みんな武道館を目指したいんですよ」。
いよいよ明日は本番です。
おまけ
山城曹長は2015年の音楽まつりを最後に、定年退職されました。音楽まつりは本番前日の夜に武道館で通しのリハーサルが行なわれます。その際、都内の高校の吹奏楽部の生徒などを招待しています。あまり知られていませんが、協力会などの関係者で席が埋まってしまう本番よりもよほど客席のノリが良く、自衛隊としての広報効果も極めて高いと個人的には思っています。
この総合リハーサルの際、山城曹長はマイクを手に挨拶し、それから最前列のセンターでその自衛太鼓の腕を披露しました。そして北海道から上京した奥様から花束を贈られ、自衛隊の自衛太鼓を長年にわたって牽引してきた功労者として、有終の美を飾りました。
リハーサル後、10年ぶりにお話しました。今もOBとしてなんらかの形で自衛太鼓には関わっているのではと、勝手に推測しています。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成29年(西暦2017年)8月3日配信)