自衛官ピアニストとボーカリスト、音楽まつりデビュー(1 )

先週まで海上自衛隊東京音楽隊をご紹介してきました。実はなつかしい記事を見つけたので、今週と来週も引き続き東京音楽隊の話をさせてください。
これは2010年に取材し、自衛隊音楽まつりにデビューするピアニストの太田紗和子2曹とボーカリストの三宅由佳莉1士(当時)に密着取材した記事です。現在の三宅3曹(現在)の活躍は広く知られるところですが(先日は母校の日本大学からこれまでの活躍を認められ、日藝賞を受賞しました)、大学を出て2年目の海士が武道館中のスポットライトと視線を浴びて独唱することは、取材当時の彼女にとっては大変なプレッシャーでした。
この記事は結構レアかもしれませんね……
2010年11月上旬。
海上自衛隊横須賀基地の体育館では、海上自衛隊東京音楽隊が来たる音楽まつりに向け、演奏しながらめまぐるしく変化するフォーメーションの練習をしていました。
海上自衛隊を代表するセントラルバンド、海上自衛隊東京音楽隊。国家的な行事で演奏するほか、自衛隊の広報活動の一環として全国各地で演奏活動を行なっており、自衛隊最大の音楽イベントである自衛隊音楽まつりにも毎年登場しています。
日本武道館で開催される自衛隊音楽まつりは、陸・海・空音楽隊によるドリル演奏や自衛太鼓など、通常の音楽演奏とは違った迫力ある演奏を楽しめるとあり、座席の抽選には多くの応募が殺到する人気行事です。
この音楽まつりに今年、海上自衛隊東京音楽隊からふたりの異色自衛官がデビューします。
太田紗和子2等海曹は東京芸術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を卒業後、ピアニストとしてキャリアを積んでから技術海曹として入隊しました。芸大ですよ!
今まで音楽隊にはほかの楽器と並行してピアノやキーボードを演奏する隊員はいましたが、ピアニストとして入隊したのは太田2曹が初めてです。
太田2曹はピアニスト時代、東京音楽隊にピアノを指導していたという縁がありました。そして技術海曹という制度があることを聞いて興味が湧き、入隊を決めたそうです。
入隊してから生活環境は一変しましたが、ピアノを弾くという“仕事”内容は今までと同じ。音楽隊でも楽しんで演奏しているとのことでした。
そしてもうひとり、三宅由佳莉1等海士は、日本大学芸術学部音楽学科声楽コースを卒業後、昨年入隊したボーカリスト。こちらもまた東京音楽隊初のボーカル専門隊員です。
大学卒業後も歌っていきたいと思っているときに、就職案内で初めて音楽隊の存在を知ったそうです。
入隊後、最初の教育隊での日々はなかなかきつかったようですが、東京音楽隊に配属されてからは、大好きな歌と関われることに喜びを感じているとのことでした。
ふたりが音楽まつりに出演するのは今回が初めてにも関わらず、武道館のステージにふたりきり、三宅1士が歌い太田2曹が伴奏するというプログラムが予定されています。
その実力が高く評価されている何よりもの証でもあります。体育館で練習を重ねる彼女たちの顔も真剣です。
数日後、今度は陸上自衛隊朝霞駐屯地の体育館を訪れました。この日は陸海空各音楽隊の合同練習が行われています。太田2曹と三宅1士の姿も見えます。
通し稽古が順調に進むなか、ふたりの出番となりました。喉を保護するため常に着用しているマスクをはずした三宅1士が、太田2曹のピアノに合わせて歌い始めます。
しかし何やら様子がおかしいのです。澄んだ歌声は相変わらずですが、前回聞いたときのほうがさらに声が伸びていたし、表情も心もち強張っているように見えます。
不安は的中しました。2度目の演奏時、ピアノを奏でる太田2曹の隣に三宅1士の姿が見当たりません。聞けば体調がすぐれず休んでいるといいます。本番が近づくにつれ、過度の緊張や重圧で心身が悲鳴を上げてしまったのでしょうか。
一方、ピアニストとして数々のコンクールやコンサートの大舞台を経験してきた太田2曹は、すこぶる落ち着いた様子。空き時間には取材陣にショパンの「革命」を披露してくれるなど、余裕たっぷりです。あとは音楽まつり本番までに、三宅1士の体調が無事快復することを祈るばかりです。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成29年(西暦2017年)6月29日配信)