海上自衛隊東京音楽隊(4)

さて、今週は東京音楽隊長をご紹介します。
昨年8月に第18代東京音楽隊長に就任した樋口好雄2等海佐は1981年入隊、護衛艦「あやなみ」に勤務(以前は音楽科職種で採用されても最初は必ず実施部隊に出ることになっていました)、翌年に打楽器奏者として東京音楽隊に配属されました。
1993年以降は幹部自衛官として各地の音楽隊に勤務してきました。国際軍楽協会国際委員及び日本代表、日本吹奏楽指導者協会会員という肩書きの持ち主でもある樋口2佐はいわば軍楽隊(自衛隊では音楽隊)や吹奏楽のスペシャリスト。インタビュー時は雑多な質問にも明快に答えてくれました。
「陸海空の音楽隊には共通の任務・役割もありますが、海上自衛隊の音楽隊ならではの特色としては、毎年実施されている遠洋練習航海に20名弱の臨時の音楽隊を編成し参加することが挙げられます。参加する隊員は『世界の中の日本』を意識することができるほか、日本の素晴らしさを再認識することにより、この国の安全と平和を守る自衛隊の使命を自覚しながら演奏(広報)活動を行なうことができます。海上自衛隊のセントラルバンドである東京音楽隊については、その演奏技術は世界の軍楽隊の中でも相当高いレベルにあると自負しています。ただ、海外の軍楽祭(タトゥー)に参加すると、海外の軍楽隊からは楽器演奏の技術云々ではなく、その国家の歴史的アイデンティティを背負った力強いプライドというものが伝わってきます。陸海空のセントラルバンドでもそれぞれ音色の違いがあり、中央音楽隊はがっしりした重厚感、航空中央音楽隊はスマートで軽やかな音だと感じます。東京音楽隊はピアニストの太田紗和子2等海曹とヴォーカリストの3宅由佳莉3等海曹が入隊したことで、声楽と吹奏楽、ピアノと吹奏楽といった今までにない編成で演奏する機会が増えました。レパートリーも広がり管楽器奏者にとってもよい刺激になっています」
ところで、音楽隊の使命とはなんでしょうか。その中でも東京音楽隊の果たす役割、役目とはなんなのでしょう。
「国民の皆様に広く認知されているのは“広報のための演奏”、いわゆるコンサートでしょう。私たちが国民のみなさまの前で演奏を披露することで海上自衛隊に親近感を持っていただき、遥か洋上、上空、さらには海中において日々黙々と任務についている隊員に思いをはせていただくことを目的としています。また、皆様の目に付かないところではありますが、私たちが1番大切にしている仕事が“隊員の士気高揚のための演奏”です。例えば、海外派遣される艦艇が出航するときに岸壁でエールを送る。帰国の際には『無事大役を果たしお疲れ様でした』と出迎えをするといったようなことです」
では、隊長の目指す理想の音楽隊とは?
「演奏技術的に水準の高い楽団となることはもちろんですが、民間楽団とは異なり国家が有する楽団であるということを常に意識しつつ、音楽を通じ国民の皆様の負託に応えるため、われわれにしかできない、我々がすべきことを隊員個々が考え、実行できる音楽隊です」
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成29年(西暦2017年)6月8日配信)