与那国駐屯地と沿岸監視隊(6)

今週からは与那国島だけでなく、南西方面における防衛力整備の進ちょく状況についてご説明します。
中国が強引な海洋進出に固執する理由として、この連載の1回目で「地上を開発し尽くしてしまった中国にとって、新たなエネルギー資源を求める場所はおのずと海洋になります」と述べました。
しかし実際にはそれだけではありません。実際のところ、南シナ海の南沙諸島周辺に眠る海底油田は、中東で産出される石油に比べて質が悪いのです。質のよい石油とは産出されればすぐさま使えるもので、質の悪い石油ほど使い物になるようにするためのエネルギーを必要とします。つまり「石油のために石油を使う」という効率の悪さがあるわけです。
それでもなお中国が第一列島線を越えようとする意図は軍事戦略上の目的のほか、海洋の専門家によれば「海洋への憧れ」もあるというのです。
中国という国は大陸国家であり、世界第4位、日本の約25倍もの面積がありながら、海岸線の長さとなると島国ゆえ2万9751kmある世界第6位の日本に対して、中国はその半分以下の1万4500kmの11位です。
中国の長い歴史の中で、国を大きくするということはつまり国境を越えて領土を拡大することであり、北へ、南へ、西へと向かうものでした。東は海という「行き止まり」だったのです。
それゆえに、中国には「海洋を知りたい」という強い思いがあります。
平成24年6月に施行された中国における領海と管轄海域での潮流や水温の観測などについて定めた政令「海洋観測予報管理条例」は、主権の主張や権益の確保という狙いだけでなく、海上での観測態勢を強化することにより、まだまだ未知の世界である海洋についての情報を得るためであるともいえるでしょう。
また、中国では海底資源の採掘は政府にその権利があるが、国土の地下資源についてはその土地の省に権利があり、政府といえども自由に採掘するわけにはいきません。そのためおのずと海洋に目が向くという側面もあるのです。これは専門家の方に教えていただき、初めて知りました。日本ではまだまだ知られていない事実でしょう。
さらに、国内の経済停滞に対する国民の不満をそらす狙いもあると考えられます。
台湾や南沙諸島、そして尖閣諸島など失われた領土を回復することは、現政権の正当化につながります。なかでもナショナリズムを煽るには、どの国よりも日本を叩くのがいちばん有効です。
日本がこのプレッシャーをはねのけるには、相手を刺激せず、しかし自国を守るための確実な抑止力となりうる防衛力を備えるという難しい軍事バランスが求められます。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成29年(西暦2017年)4月13日配信)

読者より

いつも楽しみにしています。
与那国島での災害出動を巡る町側と自衛隊のやり取りの記述に「なるほど、こういうことがおこるのか」と思いました。相互理解を深めていくことが重要ですね。駐屯、駐在する隊と地域住民・行政との思いが通じ合うことが「国民の軍隊」になる一歩なのでしょうね。
いずれお時間のあるときに陸自の師団「駐屯地」の意味を教えていただけませんか。どこか別のところに本拠地があっての「駐屯」ではないのかなと思うのです。なんで陸自は「基地」ではないのでしょう?。
ちなみに私はスマホケースを使っていません(笑)
(F)
与那国島と昔から関わりの深いある大学教授は、「自衛隊の配備前と後では住民の感情が激変した」と言っていました。島の収入も増える、人口も増えて島に活気が出る、民生支援もしてくれると、もはや反対する理由がないようです。
お問い合わせの件ですが、国語辞典で調べると駐屯は「(軍隊が)そこにとどまること」、基地は「(軍隊の)行動の基点となるところ、活動拠点」とあります。海・空自は港や滑走路などの大がかりな施設が必要なため、その施設のある場所を活動拠点、つまり基地としています。一方、陸自の場合は拠点とする場所に大がかりな装備や施設はないので、進出した場所に天幕、塹壕、雪濠などで指揮所を置きます。作戦が進み移動することになったら、今度は移動先でまた指揮所を設営します。このように陸自にとってはあくまでも「とどまる場所」なので、基地ではなく駐屯地という名称になります。陸自には基地は存在せず、駐屯地・分屯地のみです。これで大丈夫でしょうか?
(渡邉)