高等工科学校(5)

高等工科学校のF生徒(2教隊)は兵庫県淡路島の出身。一度は不合格で普通高校へ進学したもののあきらめきれず、あと一度残された受験のチャンスに賭けてみごと合格しました。
「普通高校では、目的もなくただ授業を聞いて試験を受けての繰り返しでしたが、ここへ入校してから常に、未来に向かって勉強していると実感できます。自分はまだ生まれていませんでしたが、阪神・淡路大震災で自宅が被災したこと、さらに東日本大震災での自衛隊の活動を目にしたことなどから、自衛官を志すようになりました。同級生は1つ下ですが、ギャップは感じません。同じ境遇で入った人とは仲良くなれて楽しいですね。将来は幹部自衛官として、人の役に立つ仕事がしたいと思っています」
最上級生であるG生徒(3教隊)は、1年のときは言われたことをただこなすだけで精一杯でしたが、学年が上がると次第に周囲にも目を向けられるようになったそうです。
「休日に外出して柔道部の同期と買い物や食事を楽しむのは、いい気分転換になります。自衛官を意識したのは東日本大震災がきっかけで、なかでもヘリの活躍を見て、自分もそれに関わる仕事がしたいと思うようになりました。視力の面でヘリパイは難しくても、この学校でヘリ部隊を指揮する人の存在を知り、将来は航空科で指揮官として働くことが目標になりました。現在は防大進学を目指して受験勉強中です」
高校工科学校におけるクラブ活動は、選択科目訓練のひとつでもあります。ドリル部部長のH1等陸尉は、自身も生徒時代にドリル部で活動しました。
「学校の記念行事や開校祭、入校式、卒業式のほか、要請に応じて各駐屯地や神奈川県のイベントなどに参加しています。競技会があるわけではないので、そういう場に呼んでいただき歓声や拍手をいただくことが、部員にとっての目標です。自衛隊のPRや学校の広告塔としての役目も果たしているということがモチベーションにつながっているので、私の要望事項も『ドリル部員として誇りを持て』です。また、自主性を重んじ、上級生が下級生を教えるので、この学校が推奨するリーダーシップ・フォロワーシップを具現化している部でもあります」
H1尉が自衛隊生徒だった時と今の生徒との違いも感じるそうです。
「20年前に生徒だった私たちの時代より、明確な目標を持って入校してくる生徒が多いと感じます。また、私たちの頃は区隊長が白いものを黒と言えば、『区隊長がそういうのだから黒なんだ』と、そのまま受け止めました。一方、今の生徒は『なぜ黒なんだろう』と真剣に悩みますね。それは決して悪いことではないと思います。さらに、昔は自衛官の子息が多かったのですが、今はまったく関係ないところからの入校も非常に増えました。私は1教隊の担任になることが多いため、生徒だけでなく保護者にも自衛隊とはどういう組織かというところから説明しています」
全国優勝の経験もあり強豪で知られるカヌー部のI生徒(3教隊)は、夏にベラルーシで開催されたカヌージュニア世界選手権に日本代表として出場しました。過去にもカヌー部からの出場はありましたが、シングル(1人乗り)での出場は初の快挙です。結果は8位でしたが、7月上旬の富士野営訓練で10日以上も練習できなかったことを考えれば素晴らしい成果です。ちなみにI生徒は日本オリンピック委員会よりオリンピック強化指定選手の認定も受けています。
「カヌーは腕だけで漕いでいるように見えますが、実は全身を使うので、体の連動が難しいスポーツです。入部したばかりの頃は沈してばかりでしたが、慣れてくると、自分の体を使ってどんどんスピードを出せることが楽しくなりました。卒業後の進路はまだはっきり決まっていませんが、カヌーを続けるなら、陸曹となって体育学校に入校できればと思っています」
海自と空自も陸自同様、昭和30年に生徒制度が発足しましたが、現在は廃止されています。統合運用の機会が増えた現在の自衛隊において、高等工科学校出身者は陸自のみならず自衛隊全体の各所で活躍する、まさに宝なのです。
(おわり)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)11月24日配信)