高等工科学校(1)

今週から数回にわたり、今年6月に取材し、JDA Club2016年夏号に掲載された陸上自衛隊高等工科学校の記事に、大幅に加筆してご紹介します。
 陸上自衛隊では近代化する装備を取り扱う人材の育成を目的として、昭和30年に生徒制度が発足しました。昭和38年度には少年工科学校を開校、少年自衛官に対する教育を行なってきました。
 その後、平成22年度からの自衛隊生徒制度の変更に伴い、少年工科学校は高等工科学校となり、これまでの伝統を継承しつつ任務の多様化や高等学校教育の趨勢など、時代の変化に対応した教育を行なうこととなりました。
 陸上自衛隊武山駐屯地の敷地内にある高等工科学校は「技術的な識能を有し、知徳体を兼ね備えた伸展性ある陸上自衛官としてふさわしい人材を育成する」という理念のもと、陸上自衛官を育成する組織です。
 少年工科学校時代の生徒は「3等陸士」だったため月額約15万円の俸給がありましたが、現在の生徒は特別職国家公務員で自衛隊員の身分になるため(現在の生徒は自衛隊員ではありますが自衛官ではありません。3士だった生徒は自衛隊員かつ自衛官です【自衛隊員というくくりの中に自衛官も含まれます】)、「生徒手当」という名称で、額面で約10万円が支給されます(ほかに「期末手当」もあります)。自衛官ではないので制服も装いを新たに、かつての陸上自衛隊の制服とほぼ同じスタイルから、防衛大学校の制服と似た詰襟となりました。全員が駐屯地で生活し、衣食住は無料です。
 ここでの3年間の教育は普通科高校と同様の教育を行なう「一般教育」、工業高校に準ずる電子機械工学や情報工学などの門的技術の教育を行なう「専門教育」、陸上自衛官(陸曹候補者)として必要な防衛教養や各種訓練を行なう「防衛基礎学」からなります。学校の教育体系は、これらにクラブ活動を加えた4本柱となっています。
 専門教育と防衛基礎学は高等工科学校ならではの教育なので、補足としてパンフレットに記載されている説明を加えておきます。
 まず専門教育ですが、
「陸上自衛隊では、高機能化・システム化された多くの車両、通信電子機器、火器及び航空機等を装備してあらゆる任務を遂行します。 これらの装備品の能力を発揮させるためには、専門的知識や技能が必要とされており、この能力が本校生徒に求められています。このための教育は、本校における教育と卒業後におこなわれる教育に大別され、本校においては、3学年時に将来の技術的スペシャリストとしての素地を身につけるための教育を実施しています。」
としています。
 具体的には、電子機械工学、情報工学、ロボット制作等を通じての教育などが行なわれます。
 防衛基礎学は、
「陸上自衛官として必要な基礎的事項の教育」
とあります。
 さらに「課目は、法令等を学ぶ服務及び防衛教養と、野外における基礎的な行動を学ぶ戦闘及び戦技訓練に大別されます。この他、学年ごとに特色ある競技会を行って体力・気力・チームワークを養い、また職種学校研修等を行って陸上自衛隊に関する理解と知識を深めるようにしています。1・2学年は、主に駐屯地内の訓練場で行います。(行進訓練時は部外地を使用します。)この教育は課目の特性上、訓練準備等に時間を要するために集中訓練という名称でまとめて行うようにしています。3学年は、総合的な訓練を行うために東富士演習場で行う課目もあります。」
とあります。
 余談ですが、今夏、東富士演習場での訓練中に生徒の集団食中毒が発生しました。なにがあったのかとニュースを目にしたとき思わず緊張したのですが、その後「調理担当の生徒がちゃんと手を洗っていなかったっぽい」という話を別のところから聞き、深刻な原因でなくよかったと安堵すると同時に、演習場での訓練中に腹痛に見舞われた生徒たちの悲劇を想像し、申し訳ないけれど少し口角がゆるんでしまいました……手洗いって大事ですね!
次回は高等工科学校長インタビューなどをご紹介します。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)10月27日配信)