陸上自衛隊防災マニュアル(7)

今回で「陸上自衛隊防災マニュアル」は最終回です。先週に引き続き、2016年5月に陸上自衛隊下志津駐屯地にて行なわれた平成28年度下志津分区防災訓練について、午後の様子からご紹介します。
 午後は自治体との意見交換会が行なわれ、自衛隊側からは大型ヘリの場外離着陸場等の確保についての依頼がありました。
 東日本大震災や昨年の関東・東北豪雨の災害では、自衛隊の回転翼機が多くの被災者の救助を実施したように、人員および搭載能力の高いCH-47に対応した場外離着陸場の確保が重要となるためです。
「CH-47のダウンウォッシュによる影響を考慮しつつ、着陸場の不測事態発生に対応できるよう複数の候補地の準備をお願いしたい。特に山間部集落の近傍にこういう場所があればいいのですが」という声に、自治体関係者は地図をのぞきこみながら、自分たちの自治体に該当する場所があるか熱心に話しています。
 そのほか、平素からの当該市町村と担当部隊長(中隊長)との連携向上を図るため、分区内の担当中隊長を防災会議委員として委嘱してもらいたいという要望も出され、自治体側からも積極的な発言が相次ぎました。
 22市町村もあれば自治体ごとに多少の温度差はあるでしょうが、災害に備え、いざという時は被害を最小限にとどめたいという思いはどこも同じです。自衛隊側も東日本大震災以降、従来の見せる展示型防災訓練を見直し、自治体を主体とした指揮所訓練の必要性を再認識しました。そのため自治体が実施する訓練にも積極的に参加して自治体とのさらなる連携を図り、実効性のある災害対処を行なっています。
 最新の世論調査によると、自衛隊が存在する目的は「災害派遣(災害の時の救援活動や緊急の患者輸送など)」が81.9%と、「国の安全の確保(周辺海空域における安全確保、島しょ部に対する攻撃への対応など)」の74.3%を抜いてトップとなっています。「自衛隊はどのような面に力を入れていったらよいと思うか」という質問の回答も同様です。
災害派遣は自衛隊の主たる任務ではありませんが、災害派遣における国民の自衛隊に寄せる期待と信頼はきわめて大きいものです。
 阪神・淡路大震災では被災地でのボランティア活動にも注目が集まり、「ボランティア元年」とも言われています。自衛隊の災害派遣はそれ以前から行なわれていましたが、阪神・淡路大震災での規模は過去に類を見ないものだったこと、その後は法整備や各種見直しが行なわれ、さらには自衛隊に対する世論まで劇的なまでに変わったことを考えると、自衛隊にとっては「災害派遣元年」といえるかもしれません。
災害大国ともいえるわが国において、自衛隊の備えと対処能力は今後もさらに高まっていくことが予想されます。
(おわり)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)10月13日配信)