オリンピックと自衛隊(3)

1962年3月、防衛事務次官を委員長とする防衛庁東京オリンピック準備委員会が設置されました。その事務局として設けられたオリンピック準備室が、OOCとの連絡・調整および各幕僚監部との調整等事務を担当することになりました。
 準備室はローマ大会のイタリア軍の協力を参考に、大会規模に対してどの程度の人員や装備が必要となるか検討しつつ、協力を要する業務などについてOOCや各競技団体と折衝しました。そして同年7月、OOCは防衛庁へ第1回目の具体的な支援要請業務を依頼します。なおこの時点では、諸経費については「防衛庁と協議したいのでよろしく」とだけなっており、詳細は決まっていません。
 要請のあった支援業務は、この時点では以下の通りです。あまりおもしろくない内容ですが、お付き合いください。
支援要請種目:業務内容
大会運営本部:緊急連絡用小型ヘリコプター
選手村関係:村内警備、宿舎管理
交通輸送関係:輸送、会場整理
施設関係:給水装置
広報関係:プレスセンターの記録整理、ラジオセンターの通信技術の支援
競技関係
式典:聖火リレー(国外)、奏楽・章旗の取り扱い(開閉会式と表彰式)、祝砲・通信(開閉会式)
近代五種:競技運営、救護
馬術:競技運営、救護
射撃(ライフル):競技運営、救護
射撃(クレー):競技運営、弾薬輸送保管
自転車競技:競技運営・記録の掲示、団体ロードレースにおける各国予備自転車の輸送および競技運営上必要な通信
陸上競技(マラソン・競歩):競技運営・記録の伝達、審判員・視察員のレース間輸送および競技運営上必要な通信
漕艇:競技運営・コースの設置、ステッキボート係および競技運営上必要な通信
ヨット:競技運営、警備等
衛生関係:救護・陸上主競技場における担架要員
要請人員・装備合計
人員6185名(うち競技関係4140名)、1/4tトラック167台、3/4tトラック16台、1/2tトラック54台、救急車4台、無線機80台、有線機111台、交換機5台、天幕2個、ヘリコプター8機、輸送機3機、砲3砲、給水装置1個、本船3隻、艇40隻
 防衛庁はこの要請を受け、オリンピック支援要領を次のように定めました。
・陸上自衛隊はヨット競技・国外の聖火リレーを除く全般的支援をする
・海上自衛隊はヨット競技の支援をする
・海上自衛隊・航空自衛隊・附属機関等は、陸上自衛隊の支援に協力する
・自衛隊機による国外の聖火リレーの支援について検討する
 支援業務の内容から、陸・海・空自衛隊の協力の度合いが大きく異なることがわかります。これでは自衛隊への協力依頼というよりも、陸上自衛隊への協力依頼と言ってもいいほどです。
 過度な支援は各自衛隊にとっても負担が大きくなりますが、手持ち無沙汰でも蚊帳の外に置かれたようでおもしろくないはず。
 海上自衛隊はヨット競技の支援があったからまだ面目を保ったものの、焦ったのは陸自の支援という役目しか与えられていない航空自衛隊です。
 結果としてはクレー射撃と漕艇については空自単独での支援となったほか、開会式ではブルーインパルスによる五輪飛行を披露し式典に華を添え、しっかりと見せ場を作りました。
 防衛庁はOOCに9名の自衛官を派遣し、事務の効率化をはかりました。また、1961年11月にOOCから依頼を受けていた朝霞射撃場建設工事は、文部省から防衛庁に予算を移し替えて建設することとなり、1962年8月から部隊施行により土木工事が着工しました。
 なお、この射撃場は現在も自衛隊体育学校が使用しており、2020年のオリンピックでも老朽化の進む建物こそ建て直すが、朝霞射撃場が会場となります。
 前回の東京大会と同じ会場が使われる競技は、ライフル射撃のみです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)4月7日配信)