オリンピックと自衛隊(22)

長らく連載してきた「オリンピックと自衛隊」は今回が最終回となります。
先週に続き、今回も近代五種競技についてご紹介します。
今回のリオオリンピックには、三口智也3等陸曹と岩元勝平3等陸曹が
近代五種の日本代表として出場します。
「近代五種は気持ちの切り替えが大事な競技です。1種目終わった後に
いかに次の種目へ気持ちを切り替えられるかによって、勝敗に影響が出ます。
たとえば水泳が得意の選手で、最初の種目であるフェンシングで思うように
勝率が上がらなかった場合、『次は水泳だ』とぱっと気持ちを切り替えられれば
いいのですが、それを引きずると本来得意の水泳まで悪くなってしまうと
いうことがあります。気持ちを引きずりがちな選手は近代五種には
向いていません。その点、岩元は非常に切り替えがうまいですね」
体育学校の近代五種班の監督で日本近代五種協会競技力強化副委員長
でもある宮ヶ原1尉がそう評価する岩元勝平3等陸曹は、高校卒業後、
2008年に入隊しました。
高校までは水泳の選手で、近代五種という競技は体育学校に声をかけられて
初めて知ったそうです。
はじめは「水泳以外はすべて不安、特に乗馬は自分にできるのかと不安
しかなかった」といいますが、実際に競技を始めてみると意外な発見がありました。
自分の強みであるはずの水泳はどの選手も得意な種目であるため、
レベルが高く差がつきにくい一方、もともと走るのは速いほうだった上に、
射撃がよく当たったのです。今や「自分の武器はコンバインド」と言えるまで
となり、その実力は世界にも引けを取りません。
「フェンシングは、始めたばかりの頃は面白かったんですが、練習を重ねる
ほど壁にぶつかるように感じていて、悩むことがいちばん多い種目かも
しれません。馬術は最初こそ戸惑いましたが、今は馬の性格や癖に自分の
技量を合わせ、馬が動きやすいようにできていると感じます。気持ちは確かに
引きずらないですね。最終種目のコンバインドに賭けているので、
そこまで引きずっているわけにはいかず、むしろ最後にテンションが最大に
なるようにしないといけませんから」
岩元3曹は、近代五種の面白さは、1種目ごとにまったく違う競技なゆえに、
得意・不得意がありながらもカバーしながらやっていけるところだと言います。
苦手な種目をカバーしつつ得意な種目を伸ばす、難しさと楽しさが表裏一体
の競技なのだと。
岩元3曹は2012年から全日本選手権3連覇、リオへの出場は確実と
思われていました。全日本選手権で4連覇、そして2015年のアジア・オセアニア
選手権で好成績を残せていれば、リオ出場はあっさり決まっていたでしょう。
おそらく本人もその流れを何度もイメージしていたはずです。しかしその道を
進んだのは同僚の三口3曹でした。
「さすがに、試合後すぐにおめでとうとは言えなかったです。けれどあと1枠
残ってよかったというのが正直な気持ちですね。試合のときはピリピリして
みんな変わりますが、普段は一緒に練習している仲間だし、仲はいいんですよ」
そう話す岩元3曹の言葉を裏付けするように、宮ヶ原1尉は「試合のときは
ライバル意識を持っていますが、日常生活ではとても仲がいいですね。
外出も一緒に行くし、営外の選手は家族ぐるみで付き合っています」と話していました。
体育学校から五輪代表を出すこと、メダル獲得を目指すことが使命とされている
近代五種競技では、親しい仲間が最大のライバルでもある。しかし競歩同様、
互いに刺激し合い、励まし合い、切磋琢磨することで、それぞれがより実力を
つけていくのでしょう。
その後、岩元3曹は実力だけでなく運も引き寄せて、リオ行きの最後の1枚の
切符をつかみとりました。まずはこのリオでオリンピックの経験値を積み、
さらに2020年の東京大会を目指して欲しいと思います。
取材をして感じたのですが、近代五種は話を聞けば聞くほど面白そうで、
応援したくなるし競技を実際に見てみたくなります。もっとメジャーな競技に
なるにはどうすればいいのか考えさせられました。
長い連載にお付き合いいただきありがとうございました!
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)8月18日配信)