オリンピックと自衛隊(19)

先週は体育学校についてご紹介しましたが、今週からは体育学校所属の選手がリオ五輪に出場する競技についてご紹介します。
トップバッターは射撃です。
体育学校の射撃班ではライフル射撃とピストルを行なっており、東京大会以来、日本が参加したすべてのオリンピックに計20名の代表を送り出した自衛隊のお家芸です。
ロサンゼルス大会で48歳にしてラピッドファイアピストル(RFP)種目で金メダルを獲得した蒲池猛夫氏は、「孫のいる金メダリスト」として一躍有名になりました。
日本ライフル射撃協会選手強化委員ライフル副部会長でもある射撃班総監督の木場良平3等陸佐は、ロサンゼルス、ソウル、バルセロナオリンピックと3大会連続でオリンピックに出場、バルセロナの50mフリースモールボアライフル3姿勢120発競技の銅メダルメダリストです。ライフル射撃の日本人メダリストは、現在にいたるまで木場3佐ただひとりです。
2020年東京大会では金メダル30個がJOCの目標であり、その達成には射撃競技の成績が大きく影響するのではと言われています。
そこで体育学校の射場には電子標的が導入され、これ以上ないトレーニング施設となりました。しかも2020年の試合会場は、自衛隊朝霞訓練場に仮設施設が建てられます。射場こそ異なりますが、いわばホームがオリンピック会場となるのです。これほど有利な条件はないでしょう。
ただし近代五種競技同様、出場はもちろん、自衛隊として結果を出すことが求められる競技という重圧はついて回ります。
リオ代表にはライフル射撃の山下敏和1等陸尉と、体育学校の出場は12年ぶりとなるラピッドファイアピストルから森栄太3等空尉の2名が出場します。
山下1尉は2008年の北京大会に出場しながら、2012年のロンドン大会では代表の座を逃しました。今回は8年分の思いを込めて上位を狙います。体育学校からの出場選手9名の中で最年長の39歳です。
森3尉は、普通に部隊勤務している中で射撃の腕を見込まれ、体育学校の特体生となった経歴の持ち主です。
木場3佐は、東京はもちろん、リオでもメダルの可能性は大いにあり、ルールの変更も日本には有利にはたらくと踏んでいます。
「これまでは予選で撃った点数に本戦の点を加算していたので、予選で開きがあると本戦で追いつくのが難しかったのです。それが本戦は本戦だけで得点されるようになり、予選で差をつけられがちな日本にとっては有利になりました。的の中心の10点を的確に狙える実力を持っている選手がメダルを取れるかは、最後は他国の選手ではなく自分との戦いです。1発撃つごとに気持ちを安定させていられるか。終盤になってくると自分の点数が次第にわかってきますが、『このままいけばメダルを取れる』と思った途端に崩れます。安定して最後の最終弾まで撃てれば勝てるでしょう。ひたすら自分との戦いの競技なだけに、負けた時の悔しさは尋常ではありません。私もトイレで泣いたこともあります。負けたことを風などの天候のせいにする選手もいますが、条件はどの選手もほぼ一緒。そういうことを言う選手は伸びないですね」
また、以前に比べて観戦がぐっと楽しくなり、射撃の面白さがより伝わるようになったそうです。
「昔は射手の後ろに点数表示がなく、見ていてもよくわからないという観戦する人に不親切な競技でしたが、現在は選手の弾痕もモニタに表示されるほか、一発ごとに点数と順位が表示されるので、応援している選手がどの辺の位置にいるかわかります。また、選手の表情も見ているとおもしろいですよ。ポーカーフェイスもいれば感情むき出しもいますし、私などは首をひねったり頭を押さえたりしている選手が視界に入ると『こいつには勝ったな』と思っていました(笑)。選手のそんな様子を見るのも観戦の楽しみ方のひとつです」
そういう木場3佐は一発撃つごとに声を出さずに口だけ動かし、なにやら独り言を呟くことで有名でした。
なにを言っていたのか聞いてみれば、「次は真ん中だ」とか「10点取るぞ」とか、シンプルな言葉ばかりだったそうです。
オリンピックの射撃競技で体育学校の選手が活躍することを期待したいですね。
山下1尉の競技日程
男子10mエアライフル
8日 2100~ 予選
9日 0000~ 決勝
男子50mライフル伏射個人
12日 2100~ 予選
12日 2300~ 決勝
男子50mライフル3姿勢個人
14日 2100~ 予選
15日 0100~ 決勝
森3尉の競技日程
男子25mRFP個人
13日 0015~ 予選
14日 0030~ 決勝
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)7月28日配信)