オリンピックと自衛隊(15)

ライフル射撃支援のお話は、今回が最終回です。
先週までは試合と選手を支援する隊員たちの活躍をご紹介しましたが、「支援する隊員を支援する」隊員もいます。これぞ究極の縁の下の力持ちです。
300mと50m射場の射撃が終わった標的を確認、分類、整理して標的審査室に運搬するのは、標的整理班14名の仕事です。
またロッカー室や射場の警戒、通信網の構成と交換勤務隊員、資材および協会役員の輸送など、支援隊の支援を担当したのは59名の射場勤務隊です。
観衆や他国軍人の目を意識しつつというある意味華のある支援を支える、このような裏方の裏方ともいえる存在があったことも忘れてはなりません。
ライフル射撃支援隊は6日間にわたり6種目計52か国、延べ294名の選手を迎え、射場勤務から成績審査の補助にいたるまで、大会運営の主要部分を担当しました。
フリーライフル競技で世界新記録を樹立して優勝したアンダーソン選手(アメリカ)は記者会見で、「今までにこのようにすばらしく運営された大会に参加したことはない。用意していた望遠鏡をほとんど使わなかった。標的はタイミングよく上下され、その操作は機械より正確で、私はただ冷静に銃を構えるだけでよかった。世界新記録で優勝できたのは、まったく協力隊員のおかげである」と絶賛しました。
この言葉が嘘でないことは、彼が優勝を決めた際、自分の標的を担当した1等陸士の監的勤務員ふたりと肩を叩いて喜び合い、ふたりのサインを所望したことからもわかります。監的勤務員は世界新記録を表示した記念の示点表にサインしてアンダーソン選手に贈ったそうです。
従来、射撃は世界選手権で出た記録をオリンピックで更新することは難しいとされています。
ところがこの東京大会では、そのジンクスが破られました。これは選手の技量あってのことですが、整った設備に加え、選手と心をひとつにして支援した支援隊員の健闘が一役買ったことは間違いありません。
採点手だった吉丸重政陸士長は「任務完遂に大きな役割を果たしてくれたのは、選手と採点手との心の結びつき」と残しています。言葉が通じなくても、選手の笑顔が感謝の意を表していることはわかったし、ノルウェー選手からサインを求められたといいます。
また射撃界の長老である国際射撃連合事務総長チンメンアン氏(ドイツ)は、「私は50年にわたる射撃歴においてこれほど立派な協力を見たことない」と語っています。
すでにこの競技の支援経験もあり、語学教育をしたり講話を聞いたりと事前準備は余裕たっぷり、しかも競技会場は自分たちのいる駐屯地と、そこだけを見れば「おいしいところをいただいた支援隊」と思えるかもしれません。
しかし軍人相手という大きなプレッシャー、9月から不休で行なわれた練習への支援、世界新記録が複数出るほど環境の整った射場と質の高い支援、さらにどれほどの荒天でもしっかり支援を完遂していることなど、やはり大したものです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)6月30日配信)