オリンピックと自衛隊(11)

先週に引き続き、近代五種競技と大賞典馬術競技支援のご紹介です。
10月11日、近代五種競技は朝霞根津地区で馬術競技からスタート。
12日は早大記念堂でフェンシング、13日は朝霞の25m射場でピストル射撃が行なわれました。このピストル射撃については、射線と監的業務は近代五種支援隊ではなくライフル射撃支援隊が行なっています。
4日目は国立競技場のプールで競泳、そして最終種目の断郊競技は、千葉市検見川の東大総合グラウンドで全長400m、高低差約100m以上というコースで行なわれました。
連日、競技と会場が変わるのは当時の近代五種競技ならではの特色ですが、支援する側にとってはどれほど大変だったことでしょう。実際、各競技を支援しつつ次の支援の準備を行なうという、目まぐるしい5日間だったようです。
ちなみに現在のオリンピックでは、近代五種はなんと1日ですべての競技を行ないます。
フェンシングの対戦数が減ったことや断郊からコンバインドへの変更はありますが、これだけ異なる種類の競技を1日でこなすとは、選手の心身は極限の状態まで追い込まれるのではないでしょうか。
近代五種の勝者とは、間違いなくアスリートの頂点のひとつの形といえるでしょう。
続いての支援は大賞典馬術競技です。
これは大賞典馬場馬術と大賞典障害飛越競技からなり、10月22日からオリンピック最終日に当たる24日まで行なわれました。
最初に行なわれた馬場馬術は馬事公苑、24日に行なわれた飛越競技は、国立競技場のフィールド芝生が会場でした。
近代五種競技の支援の際には、支援隊の隊員は各地に分散して協力業務を行なっていましたが、24日は全隊員が国立競技場に投入され、障害物の維持、障害物前後の整地作業、馬場出入口柵の開閉などの業務を担当しました。
この日は天皇・皇后両陛下がご臨場になり午前の競技を見学されています。近代五種支援隊はこのもっとも華々しい場で訓練の成果を発揮、これまでの苦労も報われ、胸の震える思いだったかもしれません。
しかもそれだけではありません。
最大の難関であり最大の見せ場というのは、まさに大賞典障害飛越競技終了後にありました。
競技終了後から表彰式までは15分。そのわずかな時間で、馬場柵や障害構成部品など一切を撤去し、馬術表彰式から引き続き行われる閉会式会場の広場を整える必要があったのです。
撤去する大小の障害物は740点にもなり、短時間に撤去するには相当な訓練が必要です。
ところがOOCの障害物調達の入札、発注、業者の朝霞新倉地区への納品などの遅延といったごたごたの理由で、本番までに十分な訓練回数を重ねることができませんでした。国立競技場での訓練にいたっては、なんと前日の23日夜間、障害物搬入直後に行なったただ1度のみです。
どうするの! と思わず言いたくなります。
多数の障害物は多種多様で雑然としており、運搬しにくいものばかり。しかも観客席からは何万という視線が、撤去作業を行なう隊員に注がれています。この作業の間、支援隊長はどっしり構えていられたのか、それとも胃が痛くなる思いだったのか……
しかしさすが自衛隊。13分30秒で見事に撤去作業をきっちり終わらせ、表彰式とその後に続くオリンピックの幕を閉じる閉会式に、支障がないようにしました。やはりやるときはやるのです。
防衛庁の記録では「この作業の進行ぶりは観衆に多大な好感を与えた」と控えめに記しているものの、OOCの公式報告書と文部省発行のいずれの記録にも「競技終了から表彰のファンファーレ吹奏までの15分間に約700点におよぶ障害物を撤去するという難事を、13分30秒で完了させた」と明記されています。公式記録に特筆すべき働きだったのです。
てきぱきとした働きぶりは、国立競技場に集まった観衆にとっても、競技の観戦とはまた違った新鮮な驚きや、そして「すごいね」と純粋に感心する思いがあったのではないでしょうか。
こうして、近代五種支援隊は近代五種競技と大賞典馬術競技を東京、埼玉、千葉県下の7競技場において、8日間にわたりのべ776名で協力しました。
選手や役員から不満や抗議の声が挙がることは皆無、不測の事故なども1件もなく、その任務を完遂しました。そして国際近代五種連合会長トフェルト准将(スウェーデン)や日本近代五種連合会長をはじめとする多数の関係役員からは、謝辞と賛辞が寄せられました。
日本近代五種競技連合の副会長である藤井舜次氏は『オリンピック支援集団史』に、「競技の運営は支援隊があったからこそ出来たので、若し支援隊がなかったらどんな結果に成ったろう。(略)競技連合からは無理な御願いもしたかもしれないし、連絡不十分な事もあったかも知れないが、梅沢支援集団長始め実地に支援を担当された支援隊長及び隊員の皆様の御苦労に厚く感謝申上げる」という一文を贈っています。
「近代五種競技とは何ぞや」というところから始めて5カ月。近代五種支援隊、おみごとでした!
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)6月2日配信)