陸上自衛隊通信団第301映像写真中隊(4)

屋外で野外写真装置を見せてもらいました。
トラックの上にシェルタが乗っているような姿をしています。一見何の変哲もないトラックのようですが、実際はフィルム処理からプリントまで一連の作業を行うことができ、演習の際には現場で迅速な作業ができる優れもの。とはいえ最近はパソコンで処理、プリンタで出力がメインですが、シェルタは暗室にもなるので現像も可能です。
また、海外派遣の際に隊員たちが活用しているIPTスーツケースも見せてもらいました。IPTスーツケースは、地域的な制約や地上回線のインフラを無視してブロードバンド・インターネット接続ができる衛星通信端末です。
スーツケースの中には電動化されたアンテナがあり、GPSと磁気コンパスによって自動的に衛星を捕捉します。海外派遣されている映像写真中隊の隊員は、このIPTスーツケースを駆使して映像を日本に送っているのです。
映像の場合、かつてはアナログ器材によって撮影し、リニアで編集、ビデオテープで配布していました。それが現在ではデジタル撮影とノンリニア編集がメインとなり、配布はCDやDVDで行われます。
写真の場合、光学カメラに代わりデジタルカメラが使われるようになり、現像・焼付けという作業ではなく、画像処理やプリンタ印刷が行われるようになりました。
ただし取材当時は、まだわずかながらリニア編集や光学カメラでの撮影および現像・焼付けという作業も存在していたので、映写中の隊員はアナログとデジタル両方の特性を知り、使いこなすスキルを求められていました。
取材時の中隊長は長年通信畑を歩み、アナログからデジタルへの変遷もつぶさに見てきた方です。
「昔はこれぞという絵を撮るのは職人芸だったんですね。それがデジタルの登場によって素人と玄人の差が縮まったと思います。誰でもそこそこのものが撮れる時代に映像写真中隊が存在する意義、それは“確実”にあります。われわれは、部隊を撮るならそこがどんな部隊かを知っている、行事を撮るときはそれがどんな流れの行事か知っている。そうすると捉える絵が違ってくるのです。結果としてユーザーが求めているものに合致するものを撮ることができます。被写体がどのようなシチュエーションにあるか知っているわれわれだからこそ、訴える絵が撮れるのです」。
この言葉にはとても説得力があります。それにしても、膨大な任務に加えて当時のアナログ&デジタルの併用では、いくら人員がいても足りない忙しさではないでしょうか。
「これはどの部隊でも共通だと思うのですが、人手が欲しいと言い出したらきりがありません。与えられた人員でベストを尽くすことが大切です。器材も毎年いい製品が出てきますが、そうそう新しいものに買い換えるわけにもいかない。今ある装備で最上のものを撮るのが隊員たちの仕事です。彼らも『レンズが古かったからいい絵が撮れない』なんて言い訳は間違っても言いません」
「映像写真中隊は少人数で動くことが多く、場合によってはひとりで行動ということも少なくありません。そのため、意識して隊員同士のつながりをしっかり持っていないと、いざというとき結束できない。だからこそ、常に相手を思いやって欲しいと思っています。被写体に対しても同様で、相手の立場に立って撮れば、その姿勢は絵に出ます」
次回は映写中の連載最終回です。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)5月7日配信)