自衛隊海外派遣の歩み (16)

現在取り組み中の活動の続きです。
●ソマリア沖・アデン湾における海賊対処
ソマリア沖・アデン湾は、ソマリアとイエメンに挟まれた長さ約1000キロ、
最大幅約400キロの海域です。
アデン湾は年間で約2万隻もの船舶が通過、そのうち日本関係船舶
約1600隻が通行するなど、日本の暮らしを支える重要な海上交通路
となっています。
ところが数年前からこの海域で、機関銃やロケット・ランチャーなどで武装
した海賊による事案が多発、急増しました。
自衛隊は2009年に施行された海賊対処法に基づき、派遣海賊対処行動
水上部隊を継続的に派遣し、護衛艦2隻でこの海域を通行する船舶の
護衛を実施。同時に、広大な海域における海賊対処をより効果的に
行なうため、派遣海賊対処行動航空隊(P-3C哨戒機2機)を現地(ジブチ共和国)
に派遣してアデン湾上空をパトロール、不審な船舶に関する情報を随時提供
しています。
2011年6月からは、派遣海賊対処行動航空隊を効率的かつ効果的に
運用するため、ジブチ国際空港北西地区に活動拠点を整備、運用しています。
この活動は海自だけで行なっているものではありません。
陸自はジブチでP-3C哨戒機やその他の装備品の警備を、空自もC-130H
輸送機やKC-767空中空輸機・輸送機からなる空輸隊が輸送任務を
行なっています。ですから最新の活動状況は、陸海空各自衛隊のHPのほか、
統合幕僚監部のHPでも見ることができます。
2013年7月、海賊対処に関わる諸外国の部隊と協調してより柔軟かつ
効果的な運用を目指し、これまでの直接護衛に加え、CTF151(第151連合
任務部隊)に参加してゾーンディフェンス(CTF151司令部から割り当てられた
担当の海域内で行なう警戒監視)を実施することを決定。まず艦艇が同年12月
からゾーンディフェンスを始めました。
以前はアデン湾を通行する護衛対象の船舶を2隻の護衛艦が前後からガード、
約900キロの航路を2日ほどかけて進む形で護衛を実施していました。
CTF151に参加している現在は、基本的に1隻がアデン湾を往復しながら
直接護衛を、もう1隻がゾーンディフェンスを行なっています。
2014年2月からは航空隊もCTF151に参加、各国の航空部隊の運用方針や
海賊対処に関する情報分析など、これまで接することのできなかった情報を
入手することができるようになり、各国の部隊との連携が強化されました。
2015年7月には、自衛隊からCTF151司令官と同司令部要員を派遣する方針
を決定。昨年5月末から7月23日までは伊藤弘海将補が司令官を務め、訓練で
なく実動の多国籍部隊の司令官に自衛官が就任した初のケースとなりました。
2016年2月12日現在、3652隻の船舶が自衛隊による護衛のもと、1隻も海賊
の被害を受けることなく無事にアデン湾を通過しています。
今のところ活動期間は今年7月までとなっていますが、例年1年単位で延長
されているので、このままいけばこの夏さらに1年の延長が決定するでしょう。
最後に、安全保障関連法成立によって自衛隊の海外派遣がどう変わるのか、
改めてまとめておきます。
2015年9月30日に交付された安全保障関連法は、集団的自衛権行使を可能
にする「改正武力攻撃事態法」、日本の安全に重要な影響がある場合に
地球規模で米軍などを支援できるようにする「重要影響事態法」、国連主導以外
の人道復興支援などへの参加を可能にする「改正国連平和維持活動(PKO)協力法」
などの法律10本をまとめた「平和安全法制整備法」と、日本の安全に関係のない
国際紛争でも自衛隊の派遣を随時可能にする恒久法である「国際平和支援法」
の2本です。
これによって自衛隊の活動は次のように変化します。
自分や自分の近くにいる人の身を、武器を使って守る(自己保存) 
安全保障関連法成立前○ 成立後○
住民の安全を守るなど、仕事に伴って武器を使う(任務遂行) 
成立前× 成立後○
離れたところにいる人を、武器を使って助ける(駆けつけ警護) 
成立前× 成立後○
日本はこれまで武力行使について、他国に比べてきわめて厳しい基準で制限
してきました。その結果、実際の現場では「使うべき状況で使えない」、という
ケースも発生しました。
昨年6月に行なわれた衆院予算委員会における質疑応答で、
小野寺五典元防衛大臣は、2002年に東ティモールのディリ市で現地の日本人
から救援要請があった際、自衛隊員は「現地視察」という名目でそこに赴き救出
したという事例を挙げています。法が整っていないから「隊員が自らの判断で、
まず自らが危険にさらされる」というわけです。
法を整備しないままの海外派遣は、現地で任務を遂行する自衛隊員に
負担を強いてきました。
4半世紀、着実に実績を重ねてきた自衛隊の海外派遣は、今年新たな転換点
を迎えることになります。
(おわり)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)3月17日配信)