海上自衛隊 第111航空隊 (3)

今回は航空掃海訓練の様子をご紹介します。
 MH-53Eには沈底式機雷の中でも音に反応する音響機雷に対応している掃海具、マーク104が積み込まれていました。この日は音響機雷の航空掃海訓練です。
 掃海具を牽引するパワーを持つ巨大ヘリコプターMH-53Eは、米海軍が開発した対機雷戦用航空機。全長約30m、海上自衛隊が保有するヘリの中では大きさ、航続距離ともに最大です。エンジンは4380馬力が3つと、とんでもないパワー。このパワーのおかげで、105のように大きな掃海具の曳航も可能なのです。機体の左右にどんと膨らんだ部分は燃料タンクで、左右合わせてドラム缶約60缶分が入るそうです。
 搭乗員は7名。機長である正操縦士、副操縦士、航空機関士、機上電子整備員が各1名ずつ、そしてAOと呼ばれる機上掃海員が3名と。AOは海上自衛隊で唯一航空掃海を行なうこの部隊にしか存在しません。
 大きな機体にも関わらずパイロット2人が並ぶコックピットは狭く、しかもパイロットの後ろのわずかな空間に、航空機関士までもほとんど「収納」のような形で座り込みます。
 操縦席から1段下がった場所に、その操縦席に背中を向ける形で座っているのが機上電子整備員です。機体にはいくつもの電子機器が搭載されていますが、中でもレーダーで周辺海域の安全を確認するのは大切な役割のひとつ。ヘルメットに付いているマイクを通じて、各種情報をパイロットに伝えます。
 掃海具を水中に降ろしたり上げたりする作業のため、飛行中も機体の後部は開いたままです。エンジン音やローター音で、機内はとてつもない騒音に包まれています。どれほど顔を寄せ合っても話すことなど不可能なので各クルーが黙々と自分の仕事をしているように見えますが、実際はマイク越しにほとんど途切れることがないほど会話が交わされ、全員の間に情報が飛び交っています。
 「あれ波かな、それとも船?」
 「波ですね」
 パイロットの独り言のようなつぶやきに、すぐさま海上を監視していたAOが返します。すべてのクルーで安全を確認しながら飛行している様子は、とても自然です。訓練するメンバーは固定ではなくその日によって違うということなので、おそらく彼らは誰と乗り合わせても、こうしてきちんと連携を取っているのでしょう。
 この日の操縦士の3等海佐は、MH-53E導入とほぼ同じ時期からパイロットして関わってきた、いわばMH-53Eのスペシャリストでした。あり余るパワーと大きな割には軽快に動く操縦性が、この機体の特徴だそう。この日の機長は別の隊員で、この3佐は取材陣のために同乗し、随所で解説をしてくれました。
 「案外きびきび動いてくれる点はいいんですが、着陸についてはほかの機種に比べて少し難しいかもしれません。ダウンウォッシュが強烈なので、慣れるまではふらふらっとするんですよ」
 航空掃海部隊はアメリカにもありますが、掃海だけで飛行時間3000時間などといった熟練パイロットはいないそうです。だから操縦の練度については「日本のほうが断然上」と、その3佐はきっぱり断言。では、アメリカと同じ掃海具を使っている、AOたちの練度はどうでしょう? 
 次回も航空掃海訓練の続きです。衝撃的なシーンが出てきます……!
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)10月22日配信)