飛行管理隊/飛行情報隊(8)

自衛隊が発行するすべてのノータムの審査・指導する飛行情報隊には、もうひとつ大切な任務があります。それは飛行情報に関わる出版物の編集・校正です。
防空という任務において必要な飛行情報は、民間機のそれと異なる部分も少なくありません。市販されていないのだから、自己完結の自衛隊としては出版物も自分たちで手掛けてしまうのです。
代表的な出版物には『航空路図誌』があります。これは国内すべての飛行場の情報をパイロットのために編集したもので、搭乗員が機上に持ち込んで使用します。非売品ですが、それゆえマニアにとっては喉から手が出るほど憧れる逸品だとか。
『航空路要図』は航空路、航空保安無線施設等の情報を図面にしたもの。
『飛行計画要覧』にはフライトプランの記入要領等が書かれています。
そのほか『訓練/試験空域図』『自衛隊航空図』などもあり、少人数でこれだけの数の出版物を編集するのはさぞ苦労も多いことでしょう。
出版物を手掛ける図誌班は、企画・点検(校正)と編集のグループに分かれています。
収集した情報を誌面に反映させるには管制官や搭乗員の知識も必要とされるので、図誌班の班長は代々航空管制官が務めることになっています。
作図のために使うソフトは全員同じですが、一括処理する能力やソフトの性能をどれくらい有効活用できるかで、作業スピードに差が出るそう。
およそ3年で編集が一人前になり、その後、企画グループへとステップアップするという流れです。ちなみに企画の隊員の校正能力は、プロの校正者レベルだとか!
図誌班のある2曹は、ユーザーが明確なこと、自分の扱ったものが目に見える形で存在するわかりやすさがいいと話してくれました。
「図誌班に来てからは、市販の地図も今までとは違った目で見るようになりました。この色使いはいいなと思ったり、ミスを見つけたり。今後は、データを編集してから印刷し納品されるまでのタイムラグを、ネットなどでフォローできないかといった点も考えていきたいです」
取材から約3年経っているので、これは今ごろすでに実現しているかもしれませんね。
飛行管理隊、飛行情報隊という2つの部隊を取材した際、何人もの隊員に同じ質問をしました。
「同じ自衛隊の中ですら存在を知らない人もいる部隊にいることをどう思いますか」
すると、誰もが申し合わせたように「特に気にならない」「目立たなくてもかまわない」と即答しました。
さらにしつこくなぜそう思うかと尋ねると、隊員たちはそれぞれ自分の言葉で語ってくれた。
FADPという重要なシステムに関わっていることの充実感のほうがはるかに大きいと言う人もいたし、知られてないのはFADPの運用が安定している何よりもの証明と前向きにとらえる人もいました(なるほど!)。
目立たないこと、知られていないことは任務に対するモチベーションと何ら関係ないというのが、彼らの共通した意見でした。
そんな隊員のひとりが何の気負いもなく発した言葉が、この2つの部隊を何よりもよくものがたっている気がします。
「自衛隊には自衛官にも知られていない部隊が山ほどあります。そういう部隊がいくつもあって、自衛隊は成り立っているんです」
航空自衛隊といえば、誰もが最初にイメージするのはおそらく戦闘機とパイロットでしょう。
しかしその戦闘機も、飛行管理隊と飛行情報隊の働きなくして任務を遂行することは困難です。「縁の下の力持ち」を具現したような2つの部隊に、自衛隊の底力を見せつけられました。
(飛行管理隊/飛行情報隊 おわり)
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)7月16日配信)