飛行管理隊/飛行情報隊(6)

前回は飛行管理隊の各班の仕事ぶりと、入間基地の管制塔でFADPがどのように情報を提供しているのかご紹介しました。
FADPは、データ収集ボックス、あるいは素材箱と言えます。オンラインネットワークでつながっている関係各所へ、相手が欲しがっている情報を選び出して望む形式で渡してあげる、きわめて優秀な頭脳を持っている素材箱です。この仕事ぶりを知れば知るほど、最初はシステムのひとつとしてスタートしたFADPが、今や航空自衛隊のみならず防衛省にとって不可欠なシステムとなっていることも納得です。
 さて、これまでは飛行管理隊についてご案内してきましたが、今回からは飛行情報隊についてご紹介します。
航空機が安全に飛行するため、必要に応じて発行されるものをノータムということ、ノータムは国土交通省の飛行情報管理システムであるFDMSによって発信されることは、連載第1回で触れました。自衛隊が発行するすべてのノータムの審査・指導を行なっているのが飛行情報隊です。いわばノータム検問所と言ってもいいでしょう。また、国交省発行のノータムの確認も行なうほか、自衛隊機海外派遣の際は関係飛行場や飛行情報区にかかるノータムの収集、提供および管理といった国外運航支援も担っています。
 ノータムはどんなときに発行されるのか、取材時に飛行情報隊長が教えてくれました。
「滑走路付近に雪かきでできた山がある、滑走路に雪が積もっているなどは、冬によく発行されるノータムです。また、空港付近にビル工事のクレーンがある、気球やアドバルーンが飛んでいる、花火大会があるなどの場合もノータムを発行します。ちょっと珍しいケースだと、たまに基地そばの学校や住民から『ヒアリングテストがあるからその時間帯は飛ばないで』『お葬式の間は飛ばないで』といった要望が来ることがあります。これらに対応できるか否かは、その時の状況によりますね」
 テストやお葬式のみならず、「運動会があるから飛ばないで」という要望もあるそうです。対応できるかはそのときの状況によるということは、対応できるときもあるということです。余談ですが、北海道で野戦特科部隊の実射訓練の取材をしているとき、「今から○時までは搾乳の時間なんで射撃は行ないません」と言われたことを思い出します。演習場近隣の牧場の牛が大きな音に驚き、乳の出が悪くなってしまうのだそうです。
 飛行情報隊のノータムセンターにはノータム端末とFADP端末があり、ここで自衛隊のノータムを審査・指導しています(民間機のノータムチェックは国交省が行ないます)。略語に記載ミスはないか、内容に不備がないかなどを確認し、訂正がある場合は発行者へ戻し、問題がなければ承認、FADPを通じて全国の飛行場等へと発信します。
ノータム班の空曹は、ノータムを審査する自衛隊唯一の部隊だということがプレッシャーでもありやりがいでもあると言い、こんなコメントもくれました。
 「ノータムとして届くすべての情報がノータム事項とは限りません。航空機の運用に支障をきたす情報なのかが判断の基準になりますが、規則には具体例までこと細かに書かれていませんから、その判断が求められます。また、国交省でノータムを扱っているAISセンターと調整を行なう部隊でもあるので、自衛隊の代表として慎重に調整するよう心がけています」
 次回も飛行情報隊の話です。
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)7月2日配信)