飛行管理隊/飛行情報隊(1)

数回にわけてご紹介するのは、航空自衛隊の飛行管理隊と飛行情報隊です。この2つの部隊は空の交通安全と平和を支える縁の下の力持ちなのですが、縁の下すぎてその存在を知らない空自の隊員も珍しくありません。
この部隊がどんな仕事をしているかを説明する前に、まずは民間機のよくあるフライトの離陸から着陸までの動きを見てみましょう。
 たとえば、大阪から東京に向かう航空機。機長は管制官の指示に従い誘導路を進み、機体は滑走路の端へと向かいます。離陸の許可が降りたら滑走を開始、東京へ向けて飛び立ちます。上空ではあらかじめ決めてあったルートや高度を守って飛行し、目的地の空港に近づいたら、その空港の管制官の指示に従って着陸。ターミナルビルのゲートそばでは地上サービスを行なう整備員たちが待ち、次のフライトに向け給油の準備に備えています。
 このようなごくありふれたフライトにしても、安全に運航されるためには多くの人と機関とシステムが密接に関わっています。それに加えて守るべきルールもあります。
 たとえば、雲の上を飛ぶようなIFR(計器飛行)機はかならずフライトプランを提出しなければならず、それが受理されて初めて飛行が許されます。フライトプランのひとつは飛行計画書と呼ばれるもので、航空機の情報や機長の氏名、出発地や移動開始時刻、巡航高度と航路、燃料搭載量や搭乗人数など、記載事項はかなりこまごまとしています。
 飛行計画書に記載された内容は、国土交通省の飛行情報管理システム・通称FDMSへ送られます。FDMSは飛行計画ファイルや管制情報処理システムに必要な情報を管制官に提供するFDPS(管制情報処理部)と、国内外の航空関係機関との間で航空機の運航に必要な情報を提供するFIMS(運航情報処理部)からなる、日本の空の情報がすべて集まるシステムです。
 このFDMSから関係機関に情報が提供されるから、東京の空港では大阪からの航空機を迎える準備ができるし、飛行計画書に書かれた到着時刻を過ぎても到着しない場合は、なんらかのトラブルが発生したのかと迅速に対応することもできます。日本上空を飛んでいるすべての航空機の出発地と目的地と運航ルートがわかっているから、空中での「交通事故」も防止できます。ネットワークを通じて多数の機関が情報を共有することで、航空機の安全な運航が可能となるのです。
 また、滑走路が壊れて使えなくなってしまったなどといった場合も、関係機関へ迅速に伝える必要があります。このような航空機が安全に運航するために出される情報を「ノータム」といい、やはりFDMSによって発信されます。
 地上のように目に見える形での道路がないだけで、空にも道はあるし交通ルールもあります。地上の無線施設が発信する「ここに向かって飛んでおいで」という電波をキャッチしつつ、航空機は飛行計画書に書いた通りに目的地へ向かいます。航空機は空を飛ぶことはできても、機長の思うがまま自由自在に飛べるわけではありません。
 第1回は飛行管理隊の話が出ないまま終わってしまいました、すみません。
ただ情報の共有が空の安全には不可欠であること、その情報が集約されているシステムが国交省のFDMSであるという2点が、今回のポイントです。ノータムという言葉も来週以降頻繁に登場するので、ちょっと覚えておいていただけると幸いです。
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)5月21日配信)