陸上自衛隊女性自衛官教育隊(5)

前回に続き、女性自衛官教育隊の歩哨訓練の様子をご紹介します。
 区隊長の講義が続きます。
「この掩体は1人用で深さ70センチ。この交通壕を通って前進する」
「中間は視界が良好でいい掩蔽が可能だが、上空の敵機への警戒も必要となる」
「報告要領は1H5Wで簡潔に」
 隊員たちは通称「緑本」と呼ばれる新入隊員必携を片手に、区隊長の講義に耳を傾けています。数日後には広大な演習場での訓練が待っているのだから、どの隊員の目も真剣そのもの。
 けれど朝早くから体を動かし続けている体は、そろそろ燃料切れの時間。楽しみな昼食の時間です。
 この日の昼食は駐屯地の食堂に戻る時間がないので、訓練場での運搬食となりました。
 講義を終えた候補生たちは再び装備品を身に付け、昼食を運んできてくれたトラックが待機する場所まで移動します。
 配膳をする隊員、区隊長や班長たちの食事を用意する隊員など、自然に役割分担ができ上がります。1分でも早く食べたいところでしょうが、「食事に砂埃が入るから走るな!」と、すかさず指導が飛ぶのはさすが班長。
 ようやく木陰で大きな円となり、一斉に「いただきます」で待ちに待った昼食タイム。教育隊はこうして全員で一斉に食べるのが慣習だそうで、束の間、のどかな光景が広がりました。
 この日のメニューはカレー、サラダ、フルーツポンチ、コーヒー牛乳。
 食べ始めて6分後には、最初のおかわりの隊員が立ち上がりました。早食いは入隊してから身に付いたのでしょうか? 散々体を動かした後の昼食は、さぞ美味だったに違いありません。
 ちなみに私も自衛隊取材の際の食事は「食べる」というより「飲む」が原則。そうでないと周囲の食べるスピードに付いていけず、待たせることになってしまいます。飲み込むような早食いをするたびに、何度も噛みゆっくりと時間をかけて食事を取る、その大切さと贅沢さを感じます。
 束の間の昼休みに、何人かの候補生に話を聞きました。いずれも陸曹を目指す、第1中隊第2区隊の一般曹候補生です。
 千葉県出身のAさんは、祖父も父も陸上自衛官。
 小さい頃から自衛官に対する憧れはあったものの、自分も自衛官にとは特に考えず、大学4年までは教員を目指していたそうです。
「気持ちが大きく動いたのは東日本大震災です。大学の友人の実家が被災して甚大な被害を受けた際、その復旧に自衛隊が尽力してくれた話を聞き、人の力になれる仕事につきたいと強く思いました。教えるという仕事に魅力は感じていたので英語教師の免許は取りましたが、自衛官になっても教員とは別の形で“教える”ということに関わることはできますから。今は毎日の教育内容が濃厚で、覚えることが山ほどあって大変だけど充実しています」
 Aさんの希望職種は、父親と同じ普通科。普通科と一口に言っても幅広い業務があるため、自分の可能性もより広がっているのが魅力だと言います。
 打てば響くようなはきはきとした受け答え、年下の同期からは同じ目線で話せるお姉さんとして慕われていることが想像できます。
「確かに、気がつくとお姉さん役になっているところがありますね。でも頼られるの、嫌いじゃないです。実は幹候も受験したのですが落ちてしまったんです。だから陸曹になれたらその次は、機会があれば幹部へチャレンジしたいです。指導してくださっている班長達の丁寧かつめりはりのある指導を受けながら、そんな思いを新たにしました。そのためにも自分にまだまだ不足していると思う体力をしっかり錬成し、周囲の状況を見て自分に何ができるか考え行動できるようになりたいです」
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)3月19日配信)