陸上自衛隊女性自衛官教育隊(1)

今回から陸上自衛隊女性自衛官教育隊の連載となりますが、その前にまず、「女性自衛官について」から話を始めさせていただきます。
随分前の話になりますが、駒門駐屯地に勤務するひとりの女性自衛官を取材したことがあります。
阪神大震災で被災した際に自衛隊の支援を目の当たりにし、自分も人の役に立ちたいと防大に入校、災害支援などを被災地と最も密接にできる陸上を希望したという幹部でした。
近SAM(93式近距離地対空誘導弾)の小隊長になった初の女性自衛官として、高射特科で女性自衛官が活躍する道を切り開く先駆者でもあった彼女は、取材当時妊娠5か月。
「つわりもひどくなかったし、お腹の中でいい子にしてくれているので助かります」と迷彩服&弾帯姿でにっこり。出産後は部隊に復帰するのが当然と、迷いなく思っているその自然体が印象的でした。
現在、陸・海・空自衛隊合わせて約23万人の自衛官に対する女性自衛官の比率は約5.6%。
2013年度末で、1万2599名の女性自衛官が自衛隊に所属しています。
男女比では圧倒的に少ないものの、その活動の場は時代の変遷とともに拡大してきました。
1952年、自衛隊がまだ保安庁と呼ばれていた時代に看護職種に女性を採用したのがはじまりで、陸上自衛隊は1967年に一般職域でも登用をスタート。2003年には婦人自衛官から女性自衛官へと名称も改められました。
「母性の保護」、「近接戦闘の可能性」、「男女間のプライバシー確保」、「経済的効率性」という観点から、女性自衛官は直接戦闘地域、戦闘部隊を直接支援する職域、肉体的負荷の大きい職域には配置しないとしていました。
しかし少子高齢化といった社会情勢も影響し、女性自衛官が活躍できる場はぐっと広がりました。現在、普通科中隊、戦車中隊、偵察隊、施設中隊、対戦車ヘリコプター飛行班、化学防護(小)隊、坑道中隊等を除くすべての職種・職域を女性自衛官に開放しています(ちなみに海上自衛隊は潜水艦、ミサイル艇、掃海艦(艇)、特別警備隊がNG。数年前から護衛艦にも乗艦できるようになりましたし、2013年には初の練習艦艦長も誕生しました。航空自衛隊では戦闘機と偵察機パイロットは今も不可ですが、輸送機パイロットは10名ほどいますし、2011年には現役としては初の女性将補も生まれました)。
実際に女性比率の高い職種は衛生科、会計科、音楽科、需品科、通信科などです。女性中に占める職種の割合で見ると、衛生科と通信科の所属で女性自衛官の約半数を占めています。
活躍の場が広がる一方で、定着率の改善は女性自衛官に対する長年の課題でした。
男性の自衛官の中途退職率は幹部、准曹とも毎年1%以下なのに対し、女性自衛官は妊娠、出産を機に退職するケースが多く、1989年度で幹部が6.3%、准曹は10.5%と、中途退職率の高さが目立っていました。
そこで育児休業時における代替要員制度の整備や託児施設の拡充などを実施。その成果が上がり、現在は幹部、准曹とも中途退職率は4%以下にまで下がっています。三宿にある託児所と真駒内駐屯地内にある託児施設を訪問したことがありますが、いずれも清潔で広さも十分、利用している自衛官によると「一般の託児所に比べて料金は高いけれど、当直などにも対応してくれるので共働きにとってはありがたい」とのことでした。
このように、一見男社会に見える自衛隊ですが、現在は一般企業と比べても遜色のない、女性にとって働きやすい環境が整っているといえるでしょう。マタニティの制服を身に付けている女性自衛官も決して珍しい姿ではありません。
演習等では男性と同様に泥まみれになり、トイレのない場所でも過ごす女性自衛官ですが、駐屯地には女性自衛官専用の営舎があり、入浴施設も女性専用。マニキュアはNGでもペディキュアで足元を飾るなど、見えない部分のおしゃれを楽しむのは女性自衛官ならでは。
余談ですが、女性自衛官の約45%が既婚者で、そのうち約80%が配偶者も自衛官だとか。
次回は女性自衛官教育隊で教育を受ける対象の中でも、今回のメインの登場人物となる一般曹候補生についてご案内します。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)2月19日配信)
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