陸自の演習場整備(11)
演習場整備のご紹介、今回が最終回になります。最後は「ミリミリの整備ができるという強み」についてです。
取材したのは秋季の演習場整備ですが、春季の場合、除草作業は秋よりも軽くなるものの、雪が残っていることもありスケジュール通りに進められないリスクもあるといいます。
また、春・秋問わず、隊員たちは自分の部隊の担当部分の整備が終わればそれで作業終了ではなく、進捗はあくまで演習場全体で見るため、まだ作業中の場所に投入されます。「やったー、予定より早くノルマ達成した」という気持ちになっても、「早く終わったのならあっちの作業を手伝いに行って」という具合です。1日の作業についても、予定より早く作業が終わったらそれで課業終了ではなく、翌日分の作業を前倒しで行ないます。天候が崩れると作業効率は確実に下がるので、進められるときに進めておくのです。
ところで、隊員たちは訓練と演習場整備では、どちらを好むのでしょう。名寄駐屯地広報班長に尋ねたところ、あくまで個人的な感想と前置きした上で、「普段は小銃を持って山を駆け回ったり穴を掘ったりしているので、演習場整備はちょっと変化があっていいのかなと思います。通常の訓練と異なり、隊員たちが親睦を深める時間もあったりするので」とのことでした。確かに、安全第一に作業を進める様子は真剣そのものでしたが、いつも取材している訓練時の張り詰めたような空気は、演習場整備では感じることはありませんでした。これもまた、現場にいなければわからなかったことです。
演習場整備期間中のごく一部を目にしたに過ぎませんが、「そこまでやるのか」と細かな仕事ぶりに驚かされることが幾度となくありました。整備とは直接関係ない車両の洗車も同様です。このミリミリ加減が陸自の強みなのだと演習場整備の現場で感じることができたのは、私自身にとっても大きな収穫でした。
安全に、そして丁寧に。その姿勢は一朝一夕に育まれるものではなく、日頃から部隊の根幹となっているはずです。これこそが3連隊から3即機となった現在も変わらぬ精強さを誇る、朔北の第一線部隊の証です。
最後は上級部隊である第2師団の担任官、副師団長の点検を受けて終了となります。なお、今回の演習場整備を通じ、「整備隊員として整備の促進に寄与」「連隊炊事要員/野外入浴所運営要員として部隊の士気高揚に寄与」「装輪車整備陸曹として被支援部隊の任務達成に寄与」「技術指導要員として師団の築城練度の向上に寄与」「通信手として通信基盤の維持・運営に寄与」等の功績により、11名が優秀隊員として表彰されました。
名寄駐屯地に帰る車両はもちろんすべて、演習場内のぬかるみを走行していたとは思えないほどきれいに洗車された状態だったことは間違いありません。
この取材は、3即機取材を何度もしていたからこそ実現したものでした。繰り返し名寄駐屯地や上富良野演習場など、3即機の訓練を追って北海道への往復を繰り返す中で、それまでは「広報といえば地元のイベント支援が業務のほぼすべてだった」という広報班が「こういう取材はどうですか」と提案してくれるまでになったのです。この演習場取材も「陸士に話を聞く絶好の機会ですよ」と、広報班のひとりが提案してくださったことから始まりました。暑さ寒さと戦いながら取材をする様子や、限られた予算をやりくりして何度も取材にやってくる姿を、見てくださっていたのかもしれません。本当にありがたいことです。
また、部隊がひとりの取材者に対応するということは、少なくともふたりの広報担当者と車両1両が必要になります。「取材に行きたい」が実現している影には、それに部隊が対応してくださるために並々ならぬ苦労や調整があることを決して忘れてはいけないと、常に肝に銘じています。
演習場整備は現場取材が大好きな私にとって忘れられない取材となりました。そして演習場整備についてこうしてみなさまにご紹介できたことも、心からうれしく思います。
(おわり)