陸自の演習場整備(8)
先週は演習場の境界線の塚石探しやそこの除草についてご紹介しました。今週は砂防ダムの整備をご紹介します。
砂防ダムは演習場内を流れる自衛隊川(正式な河川の名称です。鮭も遡上します)にあり、堆積したがれきやゴミ等を除去し、周辺の除草も行ないます。
隊員は胴長を着用し、川の中に入ってがれき等を除去。胴長はドライスーツではありませんから、胸元まで水に浸かるわけではないとはいえ晩秋の道北、足元からじわじわ冷えていくのを想像するだけで震えます。ただ、重労働ではあるが整備の成果がわかりやすく目に見える場所でもあるので、隊員たちの達成感も大きいかもしれません。
これらの整備はいずれも特別な機材を使うわけではなく、草刈り機やチェーンソーなど市販されているものとまったく同じです。ほか、のこぎりやナタ、もっこ、レーキ、竹ぼうきなど、いたってシンプル。
あえて「自衛隊ならでは」を言うなら、刈った草木を運搬するためのもっこが、2名または4名で一度にたくさん運べるよう、2本の木に使い古しの大きな布をくくりつけた手作り製であることくらいでしょうか(たくさん乗せられる分かなり重くなりますが、ひとり分を何往復もして運ぶより効率がいいです)。
ダムにはWAPC(96式装輪装甲車)が横づけされており、WAPCの屋根からダムの足場を渡って対岸へ進み除草を進めます。取材時はすでに堆積していた草木をきれいに取り除かれており(前日に除草を実施したそうです)、仕上げの草刈りを実施するという状態でした。
整備開始前の写真を見せてもらうと川を埋めそうな勢いで枯れ枝などが積み重なっており、これを人力、かつわずかな時間で除去したことに驚かされます。成果の報告の際も、このビフォーアフターの写真を添えた資料をプロジェクタースクリーンに映すことでより詳細に、そしてわかりやすく伝えることができたそうです。雑誌掲載時はこのビフォーアフターの写真を並べて紹介しました。
土手はコンクリートの隙間から雑草が生えています。これは演習場に限らずあちこちの河川でよく見られる光景ですが、その雑草まで丁寧に刈っていきます。むしろ一般の河川の土手でここまで細かく除草するだろうかと思うほどです。
民生品の草刈り機を扱う隊員は、目の保護のためにかならずサングラスやゴーグルを着用し、フェイスガードなどで顔を保護しています。過去には刈った草木が飛んできて目を負傷したり、草刈り機で指を切ったりといった事故の例もあり、作業をしている隊員の近くにはかならず安全係が配置され、危険がないかを見ています。この辺は演習場整備といえども射撃訓練時などと変わらない安全管理が徹底しています。万一草刈り機の扱いが危険だった場合は声がけしたり、警笛を吹いて知らせたりします。安全係は砂防ダムだけでなく、すべての整備場所に配置されています。
民生品とはいえ、初心者が草刈り機をいきなり自在に扱うことは難しいものです。草刈り機に負担をかけず的確に刈る技術が求められるので、初心者や経験の浅い隊員はやりやすい場所からスタートし、徐々に難易度の高い場所の草刈りへとステップアップしていきます。そのため、誰にどこの草刈りをさせるかにも意味があり、これもまた隊員の育成につながるのです。
ちなみに経験の浅い隊員が最初に担当するのは草集め。草刈り機で刈られた草を集めて所定の場所に捨てるという作業で、草は重いし投げ捨てる作業を繰り返していると腰も痛くなるしで、誰もが「早く草刈り機を使わせてもらえるようになりたい」と思うのだとか。普段は実弾を使った射撃もする隊員の切ない願い、ちょっとほっこりする話です。
(つづく)