陸自の演習場整備(7)

2024年11月26日

除草は道路わきだけでなく、演習場と民有地の長い境界線も含みます。外柵がない部分の境界線は塚石で示されています。
20年ほど前、もともとあったはずの境界線が次第に曖昧になったり不明になったりしていたため、改めて塚石を探すことになったそうです。民間の人が演習場と気づかないまま、山菜取りなどで境界線がはっきりしないところから入ってきてしまうこともあって危険だったのです。そこで演習場の図面から場所を読み取って塚石を探したものの、草に埋もれた塚石はなかなか見つけられません。隊員たちは地面を這って探し回り、ひとつ見つけたらそこに印をつけてという作業を延々と繰り返しました。またGPSを活用したり、特科や重迫中隊が塚石を探す際は、射撃の際に諸元を出すために使うポケコンを使って方向と距離を出し、それを頼りに探すといった工夫もしたとか。そうして苦労の末にすべての塚石を見つけることができたのでした。

しかしこの境界線、起伏が非常に激しく急斜面が多いため、ロープを使わなければ上り下りできない場所もあるほどです。しかも足元もぬかるんでいるところが少なくなく、かなり難易度の高い除草です。車両が入れる場所も限られているので、草刈り機などの機材もずっと持って移動しなければなりません。
私も除草している前線まで四苦八苦しながら前進したのですが、豪快に転倒したほか、案内してくれた広報担当者に支えてもらうこと数えきれず、衣類は過去の取材に例がないほど泥まみれとなりました。写真でお見せできないのが残念です。また、あまりに足場の悪い急斜面で、前進を断念した場所もありました。偵察隊長を乗せた車両もスタック、立ち往生している場面にも出くわしました。四輪駆動車ですらはまってしまう、なんとも恐ろしいぬかるみです。「(レスキューを頼んだ部隊に)今夜ビール差し入れします」と偵察隊長が言っていたのはここだけの話です。

これまで、訓練の取材で演習場には数えきれないほど足を踏み入れてきました。真冬にホワイトアウトを経験したり、真夏にブヨに刺されて手がグローブのように腫れ上がったりとさまざまな経験をしてきましたが、初めて目にする演習場整備の現場は想像以上に過酷であることを、身をもって実感した次第です。「けがに気をつけて」と隊員たちが繰り返し言われているのも納得です。
なお、2021年あたりからドローンで境界線の状況を確認するといったことも行なわれるようになりました。整備期間中は毎晩、部隊ごとにその日の成果を報告するのですが、その際の資料作りにもドローンで撮影した写真が役立っているそうです。

境界線での草刈り作業を終えて戻ってきた火力支援中隊の隊員は「アップダウンが激しいところなので汗だくです。車のある場所までは、ここからさらに40分ほど歩きます」。
別の場所の境界線の草刈りを実施していたのは4中隊です。3即機は改編当初3個中隊の編成で、3連隊時代にあった4中隊は一度廃止されたのですが、2023年3月に改めて新編した部隊です。
新編直前に4中隊準備隊として出場した連隊の小銃射撃競技会ではみごと優勝、幸先のよいスタートを切りました。
中隊長の遊佐1尉は「演習場東側の境界約4.6キロの除草を実施しているところで、現在2小隊の作業を視察中です。気をつけているのは安全、確実であること。ひとりでも欠けると戦力が落ちてしまうので、とにかくけがのないよう安全第一でやっています。ここまでの作業は計画通り順調に進んでいます」
「4中隊は新編して約半年、もともと3連隊にいた隊員が中心ですが、全国から異動してきた隊員も何割かいます。今はちょうどお互いがどんな人間かわかり、中隊の力をどんどんつけていこうという状態です。私も演習場整備期間中は課業外の時間に各小隊を回り、積極的にコミュニケーションを図っています。休憩時間などもいつも以上に隊員たちと話ができる環境だと感じます」

演習場南側の境界には外柵がないため、今回の演習場整備でやはり塚石を探すところから始まりました。担当は3中隊、塚石を見つけたら杭を打ち、杭の上部の穴にロープを巻き結びます。
杭は地盤の固さによって打ちやすさも打ち込む深さもまちまち、一定ではありません。穴にロープを通すだけでなくわざわざ巻き結びにするのは、動物が接触することもあるので固定したほうが確実だからです。根気のいる作業です。

(つづく)