陸自の演習場整備(6)
演習場整備には、除草のようにそのつど完結する整備もあれば、「新たに取り組む射撃訓練に合わせた射場をつくる」「道路を拡張する」といった、一度の整備では終わらず数年かける計画で段階的に進める大がかりな整備もあります。そのような整備によってさらにできる訓練の種類が増え、隊員・部隊の練度が上がっていくのです。整備に時間はかかっても、次の世代がよりよい訓練のできる環境につながる、それが大事です。
なお、演習場整備の計画は方面隊が行なうため、方面総監の考え方も反映されます。たとえば「零細時間に班長、班長、小隊長、中隊長の指揮能力向上や人的基盤の育成にかかることができないか」といった提案が実際に実施された年もあります。方面総監がどれだけ演習場整備を重視している人物かが整備計画に影響するというのは、若い隊員は知らないかもしれませんね。
今回の整備では演習場を南北に割り、第2偵察隊は北の一部分、残りを3即機が担当しました。
3即機の連隊本部ならびに7個中隊で担当地域を決めるのですが、どの部隊がどの場所を整備するかは原則としてローテーションです。「前回の整備で砂防ダムだった部隊は、今回はトーチカ付近の水抜き」といった具合に、いろいろな場所の整備を経験してそのノウハウを習得できるようにしています。
なお、整備終了日は11月10日だが実際には8日に終え、残り2日間は名寄駐屯地に隣接している名寄演習場や基本射場の整備に充てることとしました。
演習場整備は春秋の年2回が原則ですが、例外として大規模演習や災害派遣等により、予定していた作業量を縮小して実施したり、場合によっては一度見送ることもあります。しかし一度見送るということは1年間演習場が整えられないということであり、かなり荒れてしまうそうです。
そうそう立ち入る機会のない一般の人々からすれば、演習場はただの荒野に見えるかもしれませんが、実際は装軌車専用の道路があったり木の伐採にも細かい決まりがあったりと、訓練をするための環境を人為的につくった場所です。そのため、定期的に人の手が加わらなければ、それこそ荒野化してしまいます。
草が伸びて側溝に入れば水はけが悪くなり地面は泥濘化、砂防ダムの堆積物が溜まれば演習場内の道路が冠水してしまいます。寒くなれば草は枯れるのだからわざわざ刈らなくてもと思いそうですが、枯れ落ちた草がダムや側溝に堆積してしまうので、春季だけでなく秋季での除草も必須です。
ヘリポート付近の草刈りをしていた隊員の話では、駐機している状態で草刈りをする際には飛んだ小石がヘリに当たらないよう、飛行隊の隊員が板を掲げて防ぐのだとか。小石でもヘリの機体に穴を空けてしまうのです。また、草刈り機で刈った草は左側に飛んで行くので、常に左側にヘリがいない方向で刈るようにします。
道路脇には小さなため池があり、土砂の流入を防ぐための土のうが積まれています。土のうが破れたり崩れたりしているとため池としての役目を果たせないため、土のうは木槌で叩いてしっかり成形します。土のうの有無でため池の「仕事ぶり」はまるで変ってくるのだとか。
一見簡単そうに見える作業ですが、整備開始前に施設部隊から土のうの作り方や積み方の教育を受けることからも、隙間なく平行に積むのはそうたやすいことではないことがわかります。ここに溜まった水は土管へと流れていきます。