陸自の演習場整備(5)
先週、「演習場は陸上自衛隊の道場」というお話をしました。私は現場でその話を聞いて非常に腑に落ちたのですが、理解しかねる一般の方もいるようです。取材した鬼志別演習場整備の様子は名寄駐屯地広報班が各種SNSでアップしたのですが……
演習場整備を紹介する3即機の動画のコメント欄にこんな書き込みがありました。
「なぜ隊員が(演習場整備を)するのか。まったく無駄な作業。雑用は少なくしてやれ、自衛隊は暇なのか」
「理想は業者が清掃して自衛官は訓練に専念」
自衛隊のことを思いやっているつもりで、まったく勘違い発言であることがおかわりいただけると思います。演習場整備は隊員たち自身で行なうことに意味があるのであり、決して雑用などではありません。
連隊長として演習場整備を実施した経験のある幹部自衛官からは、「演習場整備は雰囲気こそ和やかですが、実は結構大変なのです」という話を聞きました。
「厳しい訓練の際にけがをした場合、状況にもよりますが若干『仕方ない』と思う気持ちもあるのが隊員の心理なのですが、演習場整備でけがすると『なにをやってるんだ』となります。しかし演習場整備はチェーンソーも使うし重量物も運搬するので、事故が起きると大けがにつながる可能性が高い。演習場整備だからと油断してはいけません。隊員たちを油断させず、やるべきことをちゃんとやらせ、やってはいけないことは絶対やらせない。これが第一歩です」
「中隊長にはこんな話をしました。外科医の従兄が、盲腸の手術って実は難しいと言っていた。難易度の高い手術と違って誰も失敗するなどと思わないからと。演習場整備も同じで、上級部隊は失敗などするはずがないと思っているから、決して失敗は許されない。しかも失敗は大事故につながる。くれぐれも気をつけよう、と」
さて、いよいよ鬼志別演習場の具体的な整備内容を見てみましょう。
大きな作業としては、道路整備、除草、砂防ダム整備の3点が挙げられます。
道路整備は道路わきの草刈りを含む側溝の補修等を行ないます。また道路保護のためウッドチップを敷設、ウッドチップは演習場内の伐採した樹木を第二施設大隊の機材で加工したものです。側溝は雨水と一緒に流れてくる草木を食い止める柵(「しがらみ」と読みます)を設置したり、側溝が崩れないよう土のうを積み重ねたりします。
ちなみに柵や土のうの作り方やチェーンソーなど機材の扱い方、杭の打ち方などは、整備が始まる前に第二施設大隊から教育を受けます。
初めて演習場整備に参加する隊員はもちろん、ベテラン隊員も我流になって思わぬ事故を招いたりしないよう、しっかり学びます。
また、土のうの作り方や積み方などは施設科のたゆまぬ研究によって進化を続けているので、従来のノウハウを知っている隊員にとっても、施設科のスペシャリストから新たな知見を得られる好機なのです。
個人的には、施設科隊員のマイスターっぷりにはいつもほれぼれします。
(つづく)